りぼんの読書ノート

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恐怖の兜(ヴィクトル・ペレーヴィン)

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牛頭の怪物ミノタウロスの迷宮伝説を現代的な物語に仕立て上げてくれたのは、「ロシア文学界の異端児にして人気者」と言われるペレーヴィン。といっても、全然知らなかった作家ですけど^^;

8人の男女によるチャット形式で進行する物語。彼らはそれぞれ、一台のパソコン以外には外界と隔てられた小さな部屋で目覚めます。皆、どうして自分がそこにいるのか理解できず、チャットには監視機能があるようで、互いに自分の国籍、職業、年齢などの個人情報を告げることはできません。

彼らは、アリアドネというハンドルネーム者が立てたスレッドのもと、匿名の世界で、迷宮についての推理を語り合うのですが、互いの思想や考え方は次第に伝わってきます。個人主義者、合理主義者、懐疑論者、信仰者、観念論者、夢想家、恋愛至上主義者・・。

迷宮とはいったい何で、ここで「恐怖の兜」をかぶった怪物と言われるミノタウロスの正体はいったい何なのか。やがて、神話ではアリアドネの助けを借りてミノタウロスの迷宮から脱出したといわれるテセウスというハンドルネームを持った者が現れたときに、意外なことが明らかになるのです。

難解でした。とりわけ、途中で交わされる迷宮と怪物についての推論部分はついていけませんでした。まあ、ほとんどが空論ですので(兜の中は空であり兜自体が存在物だとか、兜の動力は「過去」であるとか、兜の外にいることと兜の内部にいることは同一だ・・とかです)、形而上的な議論の雰囲気を味わえばいい程度だろうとは思うのですが・・。

ただ、ラストに明らかになる(明らかになったのか?)迷宮と怪物の正体には、「こうくるか!」という驚きがあり、「新・神話シリーズ」のテーマにふさわしい、極めて現代的な解釈だったように思えます。

2008/12