りぼんの読書ノート

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ペインティッド・バード(イェジー・コシンスキ)

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欧州の言語で書かれたホロコースト文学を「翻訳」で読み、海の彼方のできごとと感じていたアメリカ人にショックを与えた「英語で書かれたホロコースト小説」は、1965年に刊行されてセンセーションを巻き起こしました。

第二次大戦開始直後、ホロコーストを逃れて東欧の大都市から遠い田舎に疎開した少年は、里親を失って単身で村々をさ迷い歩きます。貧しいがゆえに無知で残忍な農民たちの中で「オリーブ色の肌に黒髪黒目の少年」はどこに行ってもユダヤ人かジプシーの浮浪者と見なされ、激しく虐待されてしまいます。

タイトルは、ペンキを塗られて群れに戻された鳥が、仲間たちからの攻撃を受けて殺されてしまうエピソードから取られています。「ペンキまみれの鳥」は、肌の色の違いから迫害される少年を象徴しているんですね。

ただ本書の主題は、佐藤亜紀ミノタウロスのように、陰惨な暴力と虐待が子どもを怪物に変えていくということなのでしょう。主人公の少年を最も迫害するのは農民の子どもたちですし、虐げられ続けた少年も後には復讐心から恐るべき犯罪を行なうにいたるのです。

戦後、両親との再会を喜ばず、「ひとは、自分のことを憎み迫害をもくろんでいる連中の罠に落ちるか、自分を保護したがっている連中の腕に落ちるかの瀬戸際に立たされている」と述懐する少年の心は、もはや人間とは遠いものとなっています。

本書は、ナチスパルチザンの双方から収奪を受けた地域農民がホロコーストの一部を担っていたとの事実を明らかにし、またソ連軍を解放軍と描いたことからも親ソ的なプロパガンダとも反東欧の書ともみなされて、バッシングを受けました。にもかかわらず本書が、現在に至るまでロングセラーとなっているということは、やはり人間の本質を突いた作品と見なされているのでしょう。

2011/11