りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

宇宙飛行士オモン・ラー(ヴィクトル・ペレーヴィン)

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これはまた、なんという小説なのでしょう。

アポロの月面着陸に対抗するソ連は、月の裏側への着陸をめざすのですが、これがとんでもないローテクで、月に行っても帰ってはこれない特攻飛行。ロケットを切り離すたびに犠牲者を出し、月面探索機を漕ぐのは自転車のペダルなんです。しかも、よりおぞましい真実が・・。

著者は「本書はソヴィエトの宇宙開発についてではなく、ソヴィエト人の内面の宇宙をテーマにしたもの」と語っていますが、会話の中に登場するピンクフロイドの、本書では言及されない代表作が頭に浮かんできます。

そう「狂気」です。原題は「The Dark Side Of The Moon(月の裏側)」。そのアルバムのエンディングで「月のダーク・サイドなど本当はない。すべてが闇なのだから」と歌われているような悪夢的世界から、主人公の宇宙飛行士オモンは脱出できるのでしょうか・・。

旧ソ連でしか生まれえないような匂いがする作品ですが、テーマは普遍的なもののようにも思えます。カフカの抱いた悪夢の延長線上にある世界です。そういえば、著者の恐怖の兜のテーマはズバリ「迷宮」でした。

2011/3