りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

田舎の紳士服店のモデルの妻(宮下奈都)

イメージ 1

一流会社でエリートコースを歩んでいた夫が、突然会社を辞めて田舎にUターン。どうやら軽い鬱病のようなのです。今まで何不自由なく都会生活を楽しんでいた妻の梨々子は自分に言い聞かせます。「これは一時的なことで、すぐに戻って来れるに違いない」でも、一家が田舎から戻ってくることはありませんでした。

本書は、そんな梨々子が「10年日記」に綴った「定点観測」の記録なんですね。初めての田舎暮らしにとまどい、夫や自分の実家との距離感に悩み、子育てに迷い、何より夫の回復と復帰にかける期待と失望を繰り返しながら、30代の10年間をすごした記録。それは、はじめは嫌なものに思えた毎年写真館で撮る家族写真を、家族の成長の記録として肯定できるようになる過程でもありました。

名作スコーレNo.4をはじめとして、悩み苦しみながらも自分の生きる道を模索する女性を描いてきた宮下さんの作品の中では異質な感じがします。梨々子が最後まで、夫と正面から向き合っていないように思えてしまったのです。

従って、ラストの自己肯定もピンとこないんです。出版社の「成長しない成長小説」というコメントのように、微妙な小説でした。次作に期待します。

2011/3


P.S.
新浦安ではまだ断水が継続中。街の復旧作業は始まりましたが・・。