りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

小説のように(アリス・マンロー)

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前作林檎の木の下では、作者の先祖の物語から連なる作者自身の人生の物語となっていましたし、それ以前の木星の月にも自伝的な作品が含まれていましたが、本書はタイトル作の表題が象徴しているように、完全な「Fiction」です。70代となった著者は、自身の人生の重さから自由となったのかもしれません。

「次元」
長い間、横暴な夫に隷属していた女性は、夫の精神障害が明らかになって別れた後も心の傷は癒やされず、元夫の支配から完全に自由になりきれていません。しかし、元夫の見舞いに行く途上で起きた出来事が、彼女に変化をもたらします。

「小説のように」
子持ちの若い女に夫を奪われた音楽教師。数十年後、新しい伴侶と幸福に暮らしている女性の前に現れたのは、小説家となった、かつて夫を奪った女性の娘であり、彼女の小説には自身の過去が描かれていました。自分では見えていなかったものが、他者の視点を通じて浮かび上がってきます。

「遊離基」
夫に先立たれ自らも癌を患っている女性が強盗に入られ、かつて夫を誘惑した女性を毒殺した話をして助かります。自分は妻子ある男性を誘惑して奪った側だったのに・・。

「顔」
少年の顔にある痣をからかうようなそぶりをみせたために、少年から遠ざけられた少女。大人になった少年がかつての少女に再会した時、2人の間にあった感情が蘇ります。それは「愛」と呼ぶにはあまりに痛々しい感情なのですが。

「女たち」
死の床にある青年をめぐって、妻、義母、女性マッサージ師が立場を主張し合います。女たちに翻弄された青年が最後に見せた抵抗とは? それを密かに見つめているのが介護の手伝いにきている少女・・というのが一番怖い。

「子供の遊び」
キャンプで知り合い意気投合した2人の少女の友情の始まりと終わり。長いこと音信普通だった2人でしたが、一方の女性が死に臨んでもう片方の女性に託した懺悔の手紙には、2人が犯した罪が記されていました。

「あまりに幸せ ソフィア・コワレフスカヤの最後の数日間」
実在した19世紀の女性数学者をモデルにした小説。死に至る旅の途上で思い出すのは、ロシアから出国するために偽装婚姻した元夫、姉とその夫、今の恋人、小さな娘、恩師・・。さまざまな人生模様が交差する中から、この時代に学問で身を立てるために、どれだけの強さが必要だったのかが浮かび上がってきます。

他に、穴に落ちてから変わってしまった少年と母との関係を描いた「深い穴」や、過去を軽々しく捨て去る女性に過去を送りつけるウェンロック・エッジ」など。

2011/3