大傑作『犬の力』に続く本書は、円熟感たっぷりのクライム・ノヴェルでした。
生まれ育ったサンディエゴで釣り餌屋、魚介販売などを営むのに忙しくしながらも、朝夕にはサーフィンを楽しみ、愛する娘や、恋人や、別れた元妻とも交流を保ち、地元住民から親しまれている、62歳のフランク・マシアーノが、命を狙われます。
実は彼は、かつて「フランキー・マシン」と呼ばれた凄腕の殺し屋だったのですが、マフィアの世界から足を洗ったはずの彼を、誰が何のために付け狙うのか。フランクは、過去からの使者を迎え撃つべく、過去の事件を回想していきます。
西海岸マフィアの「近代史」としても、青年の成長物語としても楽しめる部分です。駆け出しの頃、ボスの愛人に気を引かれた話の顛末。ベガスのホテル所有を巡る殺人。詐欺的な貯蓄組合が上流階級のために開いた、らんちきパーティと、娼婦殺害事件。警官上がりの黒人マックスとのストリップ戦争と和解、その悲しい結末。その中で培われた、老戦友との友情と、FBI捜査官デイヴとの奇妙な信頼関係・・。
「殺し屋」でありながら、不要な争いは好まず、不相応な望みは抱くことはなく、自分の定めた「掟」に忠実で、愛した妻を裏切ることはなかったものの、彼女に優しくできなかったことだけを悔いているフランクは、とっても魅力ある男性です。
だからこそ彼が突き止めた「敵」が、個人のレベルでは立ち向かいようもない、とてつもない大物であり、彼の愛した普通の日々は二度と戻らないと知った読者は、彼のために悲しまざるを得ないのです。友人の裏切りもありますし・・。
でもそこはウィンズロウさんのことですから、意外な結末を準備してくれています。クライム・ノヴェルであるにも関わらず、本書の読後感は爽やかなのです。もちろん、鮮やかでもあります。個人的には『犬の力』の重厚さが好きですが、『ストリート・キッズ』のファンなら、こちらのほうが好みかもしれませんね。
2011/3