『八犬伝』の中で生理的に納得できなかった部分は、伏姫と犬との結婚です。玉梓の呪いによって畜生道に落とされた里見家は、八犬士の活躍によって清められ、救済を得るのですが、汚濁が清浄に転じるという弁証法的な大技には無理があると思えてならなかったのです。
さすが桜庭さん、そんな割り切れない部分をかなりグロく抉り出してくれました。江戸時代。『八犬伝』の物語がはじまった戦国時代からは長い時が過ぎています。江戸では「伏」と呼ばれる「人と犬の子孫」が跋扈し、人間を襲う事件が頻発するようになっていました。この「伏」たち。見た目は人間であり、人間社会に紛れ込んで生きているのですが、長い犬歯を持ち、獣臭く、性格は残虐で、体に牡丹の痣があり、寿命は20年ほど。要するに呪われた存在です。もちろん先祖は伏姫と八房。
14歳の少女ながら猟師の浜路は、「伏狩り」となるべく江戸の兄を尋ねてきます。まるで「女子高生バンパイア・キラー」のようですが、この兄も少々怪しい。なんせ名前が「道節」なんですから。たちまち「信乃」をはじめとする「伏」たちと死闘を始める浜路でしたが、彼女に纏わり着くのが滝沢馬琴の息子の滝沢冥土。そして彼が綴ることになる「贋作・里見八犬伝」こそ、「伏」の由来を説き明かすものだったのでした・・。
う~ん。中途半端でした。浜路はともかくとして、八犬士の名を持つ「伏」たちに魅力がないんですね。表裏一体の「光」と「影」の微妙なバランスで成り立っている「世界」の中で、少女が疾走するという、桜庭さんお得意の構図はよく理解できるのですが・・。
2011/3