しがない州のしがない街(といっても著者の生まれ故郷なのですが)で、しがないドーナッツ屋の雇われ店長として働いている36歳のヴィンスは、まっとうな市民なのでしょうか。
どうやらそうでもなさそうです。4年前、マフィアの犯罪を裏付ける証言をして、証人保護プログラムの下で過去をリセットして新しい人生をはじめたのに、カード偽造や麻薬の密売をやめられず、寝覚めの悪い朝を迎える毎日。そんな彼が、何者かに命を狙われてしまいます。ひょっとして、マフィアに居所をつきとめられ、殺し屋を差し向けられてしまったのでしょうか。
時あたかも1980年10月。カーターとレーガンが大統領選挙で争い、それぞれが「4年前と較べてあなたの生活はよくなったでしょうか?」と論争を繰り広げています。少年の頃から犯罪者だったヴィンスは、投票権を得たことがありません。今回はじめて送られてきた有権者登録カードをしみじみと見やって、彼は「人生を本当にやり直したい」と決心します。彼の改悛は、間に合ったのでしょうか。彼は、大統領選挙に投票することができたのでしょうか。
お洒落で楽しい小説でした。主人公は決してヒーローではなく、犯罪者としてもチンケな小物にすぎません。でもそんな男が殺し屋にビビりながらも、本当に生まれ変わるための方法を真剣に考え、自分にできる限りのことを真剣に行う様子が、ファニーで真摯な口調で語られるのです。
こういう小説を読むと、ちょっとですけどスッキリ気分になれますね。出張先で読むのにちょうどいいかな。
2007/6 広州のホテルにて