りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

半落ち(横山秀夫)

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ずっと気になっていたけど、未読だった本です。映画の宣伝で、寺尾聡が主人公だったのが、読む気を失わせたみたい。

で、ついに読んでみたら、結構よくできている本でした。アルツハイマーに悩み、殺してくれと哀願する妻を絞殺したと自首してきた現職警部。ところが彼は、妻の絞殺から自首までの2日間の行動については黙秘を貫きます。彼は全てを白状する「落ちた」状態ではなく「半落ち」だったのです。7年前に急性骨髄性白血病で13歳の息子を亡くし、今度は、自らの手で妻を絞殺してしまった49歳の男性の心はどれほど荒涼としているのか・・。

ところが、空白の2日間、彼はよりによって新宿の歌舞伎町に出かけていたとの情報がもたらされ、県警は慌てふためくのです。現職警官による嘱託殺人というだけで十分にセンセーショナルなのに、事件にスキャンダラスな要素が加わってしまうのか、と。でも、彼の誠実な人柄には、スキャンダルは似合わない。わざわざ書き残した「人間50年」の書は、何を意味するのか。全てに絶望したはずの男に宿る、一抹の希望らしきものは何なのか。

この本は、事件の背後にあった物語を追究することによって、彼の心を理解してあげたいと願った、刑事が、検事が、新聞記者が、判事が、事件を通り一遍のものとして処理しようとする組織の壁にぶつかり、結局は自らの保身を選択せざるを得なくなって、挫折していく物語です。もちろん、意外な真実が、最後に明らかになるんですけどね。

直木賞候補に挙げられながら、法律的にトリックが成立していないとのクレームがついて落選したことも話題になった本ですが、法改正以前であれば問題なかったことのようです。この騒動で価値を下げたのは、選考委員のほうだった?

2007/6 広州へ向かう機内にて