りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006-12-28から1日間の記事一覧

海賊モア船長の憂鬱(多島斗志之)

先に読んだ『海賊モア船長の遍歴』の続編です。前作で、イギリスの東インド会社に巣食う秘密結社と結託していた宿命のライバル「海賊ブラッドレー船長」を倒したモア船長の一党は、いまやインド洋では押しも押されもせぬNo.1海賊。ただし、愛船「アドベンチ…

ヒストリアン(エリザベス・コストヴァ)

「ヒストリアン(歴史学者)」というタイトルと出版時期から、また「ダ・ヴィンチ・コード」の二番煎じか・・と思いましたが、系統の異なる本でした。「歴史ミステリー」というよりも「ゴチック・ホラー」。 ヴァンパイア伝説を探求する過程で行方不明になっ…

イラクサ(アリス・マンロー)

短編集だけどひとつひとつの物語が重い。それぞれの短編に一生分の出来事が詰まっている。だから次の段落で、いきなり何年も後の話に飛ぶこともある。人生っていうのは、不連続なエピソードの集合体? もちろん違います。自分の人生のどの瞬間も無駄なものは…

嫌われ松子の一生(山田宗樹)

中谷美紀主演で映画化されて話題を呼んでいます。めちゃくちゃ不幸な、転落の一途をたどる女性の物語ですが、ファンタジーのような美しい仕上がりになっているとのこと。 松子の一生は「逆ファンタジー」なんですよね。大学を卒業して教師になりながら、セク…

バガージマヌパナス(池上永一)

最初に出合ったこの人の本は『風車祭(カジマヤー)』。ガレッジセールの「沖縄ネタ」のような、軽くてケバいノリで沖縄の風俗と信仰を語っていく不思議な雰囲気の小説ですが、一発で好きになりました。この本は、池上さんのデビュー作で、ファンタジーノベ…

砂漠(伊坂幸太郎)

「正しい」で感じた胡散臭さの口直しに、この本を読みましたが、伊坂さんには珍しくなんとなく後味の悪さを感じる本でした。 ストーリーや登場人物のキャラが悪いわけじゃない。仙台の大学入学直後に知り合った5人の仲間たちが、普通の学生生活をすごす間に…

功名が辻の正しい読み方(北影雄幸)

しょうもない本を読んでしまった。だいたい「正しい」なんてタイトルの本が、面白いわけないのにさ。 はい、精神的右翼の本です。今年の大河ドラマの原作である司馬遼太郎の「功名が辻」を持ち出して、「日本古来の精神や、武士道の美しさを読み取れ」と強要…

雪(オルハン・パムク)

前作『わたしの名は紅(あか)』が、世界的ベストセラーとなり、ノーベル文学賞候補にもなっているトルコのオルハン・パムクが、「最初で最後の政治小説」として著したのが、本書『雪』です。 『わたしの名は紅』では、16世紀トルコの細密画師たちが西洋ル…

花はさくら木(辻原登)

時代小説を指して「大人のためのおとぎ話」と言った人がいます。童心を満足させてくれるような荒唐無稽なストーリーを、確固たる歴史の中で位置づけることによって、大人にも受け入れてもらえるための装置である・・という意味だったでしょうか。「義経伝説…

Op.ローズダスト(福井晴敏)

『亡国のイージス』の続編のようなストーリーですが、あちらのテーマが国を憂える海上自衛隊の反乱なら、こちらは防衛庁の「非公開の情報部隊」バージョン。 9.11テロで韓国の北朝鮮に対する「太陽政策」は頓挫し、対北朝鮮工作を行っていたチームは撤収…

死神の精度(伊坂幸太郎)

なんと「死神」を狂言回しにした連作短編集です。どうやらこの世界にも官僚制があって、対象者を選ぶのは本部。本部の指示を受けて、対象者に7日間張り付き、「可」か「否」を決めるのが死神の役割なんですね。「可」の場合には8日目に、対象者には不慮の…

スターウォーズ全史(ダニエル・ウォーレス他)

映画は6作しか製作されていませんが、スターウォーズの歴史は、映画になった部分の前も、後も、間も、たくさん書かれています。これは、それらを年代記の形で上下2冊に纏め上げた本です。 前史として語られるのは、古代銀河共和国から連綿として続く、ジェ…

ドリームバスター3(宮部みゆき)

目次を見て、次が出るまで読むのを待とうと思ったんだよなぁ。だって最後の章が「時間鉱山(Part1)」なんだもん。明らかに(Part2)以降は、次の巻に続いてる。でも、待てずに読んでしまいました。もちろん、中途半端なところで終わってしまって欲求不満。 …

素数の音楽(マーカス・デュ・ソートイ)

1とその数自身以外では割り切れないのが「素数」。小学校の算数でも習った「素数」が、天才数学者たちを魅了し、一方では悩ませ続けているというから、驚きです。 どの数字が素数なのかを、確認する「公式」が全く謎なんですね。ある数字の範囲にいくつの素…

河畔に標なく(船戸与一)

前作『蝶舞う館』では、ベトナム山岳少数民族の独立闘争を描いてくれた船戸さんですが、本書の舞台はミャンマーです。 ミャンマー東部山岳地帯で、200万ドルを摘んだヘリが墜落。そこは軍事政権の手は届かない、カレン独立軍の支配地域。アヘン取引に絡ん…

海賊モア船長の遍歴(多島斗志之)

期待しないで読み始めた本が面白いと、嬉しいものです。「海洋冒険小説」というのは、最近はやらない分野ですよね。売れてるのは「ダーク・ピット」シリーズくらいでしょうか。 17世紀の7つの海は、海賊たちの天下。海賊船「アドヴェンチャー・ギャレー」…

聖骸布血盟(フリア・ナバロ)

キリストの遺骸を包んだといわれる「トリノの聖骸布」。キリストと同じ箇所に傷跡や血痕が浮かび上がっているのですが、最近の調査では13世紀の布と特定されてしまったようです。 これは、聖骸布を巡る争いが2000年も続いているというお話。イエスの死…

ラストワンマイル(楡周平)

どうやら、クロネコヤマトがモデルと思われる経済小説ですが、現実の先を行く新しいビジネスモデルを立ち上げる物語。 宅配業は各社のサービスが横並びになってしまった成熟産業で、今や価格引下げだけを競いあう旨みのないビジネス。しかもドル箱だったコン…

まほろ駅前多田便利軒(三浦しをん)

読み終わっての感想は「え~っ!これで直木賞!?」。そりゃ芥川賞は作品に、直木賞は作家に与えられるというけど、この人には『むかしのはなし』とかもっといい作品があるのに、これじゃちょっと・・。 ともあれ、紹介しておきます。東京のはずれにある「ま…

遥都(柴田よしき)

人類に混じって暮らしていたのは火妖族だけでなく、「青い人」という別の宇宙種族もいたようです。主人公たちの中で、純粋な人類はいったい何人いるのでしょうか。 京都上空には前作のラストで太平洋を越えて飛来してきたテニヤン島(!)が浮遊しているし、…

禍都(柴田よしき)

火妖族である紅姫が引き起こした大災害から10ヶ月後、今度は巨大・人食い蛍の大群が京都を襲います。この蛍たち、遥か古代に地球を滅ぼそうとした「闇の神々」が作り上げた「人類の天敵」であり、当時、ゲッコー族、火妖族、水龍や人類が協力して、「闇の…

炎都(柴田よしき)

魔都・京都を舞台にしたシリーズの第一作。 藤原道長が全盛期の平安京で、一条帝に恋したものの妖かしい正体を見破られ、安部清明や紫式部らに封印された紅姫が、現代の京都に蘇ります。彼女の目的は、一条帝の生まれ変わりである青年を奪い取るとともに、復…

ハバナの男たち(スティーブン・ハンター)

『極大射程』の著者によるスワガー父子シリーズの第7作。本書の主人公は、父親のアール・スワガー。息子のボブ・リーは、まだ幼い少年です。 1953年のハバナ。キューバは新米的なバティスタ大統領の独裁下にあり、アメリカの大企業やマフィアが法外な利…

チョコレートコスモス(恩田陸)

「広場にいたはずの少女が一瞬消えた」・・というから得意の不思議ワールドかと思ったら、恩田版「ガラスの仮面」。天才少女の演技が、一瞬前の彼女を消えたように見せたのです。 伝説のプロデューサーが手がける新国立劇場の杮落とし作品のオーデションに召…

レオナルドのユダ(服部まゆみ)

天才を知ってしまった者が持つ憧憬と愛憎。光の部分は、天才の師に愛された絶世の美青年サライと、師を看取った貴族出身の愛弟子フランチェスカ。影の部分は、フランチェスカの従僕という身分でありながら、師に魅せられて弟子入りを熱望するジャン。 天才的…

国銅(帚木蓬生)

1200年前、奈良の大仏の造営に関わった、名もなき庶民たち。ひとたび故郷を離れて徴用されたら、今生の別れになりかねない。そんな人たちの姿を描いておきたいとの、作者の想いで書かれた本。 長門の銅山で働く青年、国人(くにと)は、14人の仲間とと…

マオ(ユン・チアン/J・ハリディ)

『毛沢東』について私たちは何を知っているでしょうか。中国共産党の創始者で抗日戦争の英雄。蒋介石の国民党を台湾に追い落として中国を統一。その後の「大躍進運動」や「文化大革命」の誤りもあったけど、功罪を比較すると、功績のほうが大きかった。こん…

メイズ(恩田陸)

アジアの西の果て、「キノコに似た奇岩が生えている」というから、カッパドキアのあたりなのでしょう。その奥深くに「存在してはならない場所」がありました。深い谷を超えた白い荒野にある丘の上の「白い矩形の構造物」。古代から、何人もの人間がそこに入…

三谷幸喜のありふれた生活4 冷や汗の向こう側

朝日新聞に連載中のコラム「三谷幸喜のありふれた生活」が単行本にされたもの。もう第4集です。 最近、ドラマや番宣に「少々出すぎ」の感がある三谷さんですが、本書に収められているエッセイが連載されていたのは、大河ドラマ『新撰組』の執筆・撮影が佳境…

黄金の声の少女(ジャン=ジャック・シュル)

ドイツ生まれの歌姫で映画女優のイングリッド・カーフェン。彼女を妻に娶って、生涯愛し続けている作家・シェルが、妻への愛に捧げた一冊。 幼くしてヒットラーの前で歌い、映画監督ファスビンダーに愛され、サンローランのミューズとなり、ウォーホールを魅…