りぼんの読書ノート

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国銅(帚木蓬生)

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1200年前、奈良の大仏の造営に関わった、名もなき庶民たち。ひとたび故郷を離れて徴用されたら、今生の別れになりかねない。そんな人たちの姿を描いておきたいとの、作者の想いで書かれた本。

長門の銅山で働く青年、国人(くにと)は、14人の仲間とともに大仏造営人足として徴用され、都にのぼります。往きは、役人によって移送されるものの、帰りはただ放り出される。そもそも、何年後に帰れるかもわからない。

彼は、自らを蟻に例えます。同じ蟻がエサを運んでいるようでも、一匹一匹は入れ替わる。自分たち人足も、個人名など意味もない、単なる人数でしかない。それでも彼は、都で「かけがえのない自分」に気づきます。文字を覚え、出会いと別れを経験し、他人を思いやる。大仏開眼式では達成感に高揚し、仲間の死には心が痛む。

天平時代。国家権力が膨れ上がり、大仏造営と国分寺の設置によって、史上はじめて地方が中央集権に締め付けられた時代。そんな時代に生きた庶民の意識が鮮やかに描かれています。主人公の国人(くにと)は、国人(くにびと)でもあり、地方に生きる全ての人を表しているのでしょう。

2006/4