りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

マオ(ユン・チアン/J・ハリディ)

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毛沢東』について私たちは何を知っているでしょうか。中国共産党創始者で抗日戦争の英雄。蒋介石の国民党を台湾に追い落として中国を統一。その後の「大躍進運動」や「文化大革命」の誤りもあったけど、功罪を比較すると、功績のほうが大きかった。こんなあたりが、一般的なイメージでしょうか。

『ワイルド・スワン』の著者が10年を費やした本書を読むと、毛沢東に抱いていたイメージが100%覆ります。無数の証言が「毛沢東神話」を暴いていくのです。

前半では、毛沢東が権力を奪取するまでが描かれます。彼が戦った相手は、日本軍でも国民党でもなく、謀略で共産党内のライバルつぶしをしていただけであり、その為に、紅軍を何度も壊滅的危機に陥れていたという事実。権力奪取の鍵は、スターリンに対する徹底した阿諛追従と、一方でライバルを排除した共産党内での恐怖政治。

後半で語られるのは、中国全土に広がった恐怖政治の様子。数百万人の処刑と、数千万人の餓死の上に君臨する「皇帝」。ソ連から軍事援助を引き出すために台湾危機を作り出し、金日成を強引に朝鮮戦争にひきずり込む。「核戦争を起こせば人類の2/3が死ぬかもしれない。しかし中国人が一番多く残れば、世界の支配者になれる」。こんなくだりを読むと、心底ぞっとしてしまいます。

「長征」の意味、蒋介石敗退の理由、中ソ離反の真相、文化大革命の目的、実力者たちの失脚に隠された事情など、本書ではじめて明らかにされた事実も数多いとのこと。

天安門広場に今なお掲げられる毛沢東の大肖像画。この国ではまだ毛沢東批判は許されていません。その意味をあらためて考えさせられた、衝撃の一冊でした。

2006/4