りぼんの読書ノート

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マンチュリアン・リポート(浅田次郎)

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清朝末期の西太后を主人公に据えた蒼穹の昴満州の英雄・張作霖が長城を超えるまでを描いた中原の虹に続くシリーズ第3弾は、昭和天皇の密使が張作霖爆殺事件の謎に迫る作品となっています。

本書では、天皇の密使となった志津中尉が調査結果を報告する「マンチュリアン・リポート」と、張作霖と運命をともにした御料列車デューク(公爵)の独白が交互に綴られながら、事件の背景と真相に迫っていきます。西太后のために英国で建造された豪華機関車のデュークは擬人化されて、張作霖と最後の会話を交わしたという設定となっています。ちょっと違和感がありますけどね。^^;

張作霖はなぜ、中国統一を賭けた蒋介石との決戦を避けて奉天へと戻ることにしたのか。北伐を開始した蒋介石に武力で劣ることなく、日本軍の支援を考慮すれば十分に勝算があったとされる大一番で不戦敗を選んだ張は「天命に抗って運命に負けた」と独白しますが、そこには西太后も手に入れることができなかった乾隆帝の「龍玉」が関わっていたのでした。

関東軍はなぜ、張作霖を傀儡に仕立てて満州国の間接支配を行おうとせず、張の爆殺という過激な手段に訴えたのか。そこには満州を植民地化して直接支配することを「必須」とした日本陸軍の総意があったというのですが、これは目新しい主張ではありませんね。真相はわからないままなのですが・・。

以前のシリーズで主役級だった、清朝宦官の李春雲(春児)も、張作霖の軍事顧問だった吉永中佐も、ジャーナリストの岡も登場します。「龍玉」をメインに据えたシリーズですが、張作霖が息子・張学良に託した秘法の行方と、その後の中国近代史の関わりを描く続編があるかもしれませんね。「龍玉」は毛沢東に託されることになるのでしょうが・・。

本書を読んだ数日後に、映画「辛亥革命911」を見ました。時代的には『蒼穹の昴』と『中原の虹』の間ということになります。本書で、清朝に引導を渡した悪役の袁世凱の最期についても触れられていますが、これが事実だったら恐るべき秘話ということになります。

2012/11