りぼんの読書ノート

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ロサリオの鋏(ホルヘ・フランコ)

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本書はパライソ・トラベルの前段的な作品といえるでしょう。著者が扱うテーマとしても、コロンビアの若者たちがアメリカに恋焦れる背景としても・・。

本書は、銃撃された女性ロサリオが語り手によって病院に運び込まれるところから始まります。この文章がまず、いいですね。「キスの最中に、至近距離から撃たれた銃弾をまともにくらったロサリオは、恋の痛みと死の痛みとを取り違えてしまった。

語り手は親友エミリオと、ロサリオを巡る三角関係にあるのですが、上流階級のお坊ちゃん同士である男どもに対して、ロサリオはとんでもない女性なのです。スラムに生まれ、ギャングの鉄砲玉となって死んだ兄を持ち、8歳で犯されてから数え切れない性の遍歴を持つのみならず、マフィアの情婦でもあり、傲慢な男たちに何度も死の復讐を果たしてきた殺し屋でもあるのです。そもそも彼女の呼び名「ティへーラス」とは「鋏」のことであり、男の局部を鋏で突いて復讐したことからつけられたというのですから。

本書の背景にはメデジンでの「麻薬戦争」があり、それを抜きにしてはロサリオという女性は理解できないのですが、にもかかわらず、本書の凄さは「純愛の物語」となっていることにあるようです。

ロサリオが身体を与えた恋人はエミリオであり、語り手の男性とはたった一度の過ちを除いて、ずっとプラトニックな関係なんですね。しかし「強い女」でありながら「深い傷を負った女」であるロサリオを深く理解しているのは語り手のほうであり、実はロサリオもそれはわかっているのです。

何度もロサリオを癒そうとしては裏切られながら彼女を愛する気持ちは変わることなく、最後まで恋人にはなれないものの一番頼られる存在であり続ける男性。永遠に憧憬の対象でしかない「運命の女」との「運命的な純愛」は、なんと残酷で、なんと南米的なドラマなのでしょう。ガルシア=マルケスコレラの時代の愛や。バルガス=リョサ悪い娘の悪戯と共通するものを感じます。

2012/11