りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

仏陀の鏡への道(ドン・ウィンズロウ)

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東部エスタブリッシュメントの互助組織「朋友会」のために探偵として働くニールは、英文学研究に生涯を費やしたいと願う心優しい大学生。前作ストリート・キッズで依頼者であった大物政治家の怒りを買ったため、ヨークシャーの荒れ野に隠棲して、読書に没頭する生活をおくっていましたが、仕事が持ち込まれてしまいます。

その仕事とは、中国娘にうつつを抜かしてサン・フランシスコで行方不明となった科学者を会社に連れ戻して欲しいというもの。その科学者ペンドルトンは、強力な成長促進エキスの完成を目前にしていたというのです。名づけて「超鶏糞(スーパー・チキン・シット)」!^^

もちろん、簡単な仕事ではありませんでした。事件の背後にあったのは、文化革命の余燼さめやらぬ中国国内の権力闘争であり、さらにはCIAまでもが絡んでいたのですから。本書の時代は、毛沢東の死の翌年である1977年。中国が「四人組追放」や鄧小平の復活で、大きく揺れ動いていた頃のこと。厄介なことに、科学者と中国娘・李蘭は本当に愛し合っていたんですね。やはり李蘭に心を惹かれたニールは、2人のために(それは自分の失恋も意味しますが)、香港へ、さらに中国へと向かうのですが・・。

本書で魅力的だった人物は、事件の黒幕的存在だった鄧小平派の四川省書記・暁昔陽。文化大革命で妻を亡くした過去を持ちながら、国家と理想のために再び権力闘争の中に身を置いて、ためらいながらも、実の娘を犠牲にする可能性がある計画を進めていく。聖なる蛾眉山で、真実を映し出すと言う一面の霧(通称「仏陀の鏡」に、彼らが見たものとは何だったのでしょう。

文革の実体や、香港の九龍塞城スラムの様子など、シリアスな展開や描写が多かった中で、ニールと心を通わせた通訳・紹伍のキャラも良かったですね。ニールが教えた汚いスラング(とても書けません^^;)までが、最後にぴったり決まります。読者は、こういう小技に参ってしまうのです。^^

2010/3