りぼんの読書ノート

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暖簾(山崎豊子)

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山崎豊子さんのデビュー小説です。親子二代に渡って昆布商店の暖簾を守りぬいた大阪商人のモデルは、著者の実家。一介の丁稚から叩き上げて、主人からの「暖簾分け」で自分の店を持つに至った吾平のモデルは著者の実父の山崎菊蔵。戦後の焼け跡から店を再興して有名百貨店との取引や東京進出などの近代化を果たした次男孝平のモデルは、著者の実兄の三代目山本利助ということです。

大阪の朝食には「昆布」が欠かせなかったそうですね。汎用品から超高級品まで多様な細工昆布を製造し、おいしさを広め、昆布の加工品を大阪名物にまでにした大阪商人の節約や才覚やしぶとさが、余すことなく描かれます。

工場への浸水で在庫が全滅して資金繰りがつかなくなった時に、「暖簾」を担保にして銀行から融資を受けるエピソードが、本書の白眉。商店だけでなく、銀行ですら、大阪商人の心意気を持っていた時代のことですが、ビジネスの中心が東京に移りグローバル化が進む現代だからこそ、失ってはいけない大切なものに思えてきます。

山崎さんは後書きで「一年に何回となく東京と大阪を往復しているにもかかわらず、私の皮膚呼吸はこの二つの都会で急に奇妙な変化をみせます。大阪の夜の灯が小さく見えはじめると、急に全身の毛穴が開き、快い満足感を覚えます。それほど大阪は、私にとって私の血液そのものなのです・・」と語っていますが、初期の作品だけでなく、山崎さんの著作をずっと貫いているのは、大阪の「商人道」なんですね。

山崎さんの実家の「小倉屋山本」は、今でも繁盛しているようで何よりです。^^
「小倉屋山本」ホームページはこちら

2010/3