りぼんの読書ノート

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アンジェラの灰(フランク・マコート)

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1930年代、アイルランド南西部のリムリックを舞台に、貧困の中で逞しく育った著者の回想小説ですが、その貧困ぶりがハンパじゃありません。まずは、冒頭の数行を紹介しておきましょう。「アイルランド人の惨めな子供時代は、惨めさの桁が違う。口名ばかり達者で甲斐性なしの、飲んだくれの父親。打ちのめされ、暖炉のわきでうめくだけの信心深い母親。偉ぶった司祭。生徒いじめの教師。イギリス人が800年ものあいだ続けてきたひどい仕打ちの数々・・」

フランクの父親マラキは、愛国主義者で誇り高いけど、失業保険まで飲んでしまうダメ男。母親アンジェラは、親戚を頼り、救護院に救いを求め、ついには物乞いにまで身を落とす。不潔極まりない共同便所の隣の借家からも、家賃滞納に加え、板壁を暖炉で燃やしたことで追い出されてしまう。

死はいつでも側にいます。シャノン川がもたらす湿度と寒さの中、フランクの幼い弟妹は病気でぼろぼろと死んでいき、級友もいつしか姿を消していく。著者自身、チフスに罹り死の寸前までいったこともある。

当時のアイルランドで、ヒットラーは感謝されたそうです。アイルランドの男たちは、欧州戦争で労働力が不足したイギリス本土に出稼ぎに行って、貴重な現金収入を得ることができたのですから。もっともマラキはそれすら飲んでしまって、仕送りなどしなかったのですが・・。

でもこんな中でフランクは、「作家の目を持つ少年」に育っていくのです。字の読めない掃除人が暗唱して教えてくれたアイルランドの詩。ラジオから聞こえるシェークスピア。病弱なテレサとの初体験。罪の意識と、グレゴリー神父による魂の救済・・。

著者は語るのです。「もちろん惨めな子供時代だった。だが、幸せな子供時代なんて語る価値もない・・」。本書は、電報と新聞の配達でお金を貯めた少年が、家族と別れて渡米するところで終わります。タイトルの「灰」の意味は、続編『アンジェラの祈り』を読まないと理解できないそうですし、これは読むしかありませんね。

2010/3