りぼんの読書ノート

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フェリシアの旅(ウィリアム・トレヴァー)

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「短編の名手」との印象が強い著者ですが、長編も書いていたんですね。

主人公のフェリシアは、アイルランドを出たこともない17歳の少女。貧困、失業、飲酒、頑固な父親、カトリックの支配・・といういかにもアイルランド的な環境の中にいるフェリシアは、パブで出会った男性と恋に落ちて妊娠。しかも恋人は妊娠も知らず、連絡先も教えないままでイングランドに出稼ぎに!

バーミンガム近郊の芝刈り機工場に勤めているという、信憑性のない情報を頼りにフェリシアは家出し、恋人を探しにイングランドへと向かいますが、見つかるはずもありません。では、この小説は愚かな少女の転落劇なのでしょうか。

そこに近づいてきたのが、歪んだ性癖を持つ中年男ヒルディッチ。父親然として家出娘に近づいて保護し、感謝されることに喜びを覚え、彼女らが去ろうとすると・・殺害してきたという男でした。では、この小説はサイコ・ホラーなのでしょうか。映画化時の主演はボブ・ホスキンスですし!

でも、最後まで読むと「フェリシアの旅」というタイトルに込められた意味がわかってきます。決して普通のハッピーエンドではありませんし、むしろ悲惨とも思える結末ですが、彼女がはじめて自由を感じているということは伝わります。サイコパスからも、不実な恋人からも、そしてアイルランド的な悲惨さからも逃れて・・。

でも巨匠に向かって言うことではありませんが、この著者は短編の方がいいですね。登場人物の心の奥底で揺れ動く感情を短い表現で鮮やかにすくい取るような手際のよさは、短編にこそ向いているように思えます。

2011/11