りぼんの読書ノート

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海賊女王(皆川博子)

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16世紀。テューダー朝イングランドアイルランド支配を強めていく時代に、誇り高く生きた女海賊の生涯とはどのようなものだったのでしょう。主人公のグローニャは実在した人物ですが、エリザベス女王に謁見したことが記録に残っているだけで、それ以外はほとんど不明とのこと。本書は、著者が「グローニャはこうあってほしい」と思いながら綴ったという小説です。

スコットランドの高地から傭兵としてアイルランドに渡った17歳の少年兵アランは、10歳の少女に賭けで負けて従者になると誓わされます。本書の語り手であるアランは、その誓いが生涯に渡って続くことになるとは思いもしませんでした。海賊の娘として育ったグローニャは、近隣氏族に嫁いだ後に自分だけの小さな水軍を作り上げ、海賊稼業で規模を大きくしていきます。やがて彼女と海賊たちも、属国支配を強めるイングランドとの戦いに無縁ではいられなくなるのでした。

氏族間の内輪もめを繰り返して団結できないアイルランドは、陰謀と暴力を巧みに使い分けるイングランドに対して局地戦で勝つことはあっても、侵略を食い止めることはできません。息子を捕縛されたグローニャは、息子の釈放と暴戻な行政官の解任を要求すべく、エリザベス女王への謁見を求めてロンドンに向かうのですが・・。

エリザベス女王こそが、海賊船団の力でスペインの無敵艦隊を破った、もうひとりの「海賊女王」です。立場の異なる2人の海賊女王の接点と、英国王室にまつわる秘密とは何だったのか。著者は、ロバート・セシルとエセックス伯の陰謀渦巻く宮廷で孤独感を深める、晩年のエリザベス1世に「グローニャだけが、理解してくれる」と呟かせます。史実と虚構が巧みに結びついた瞬間ですね。

配下の荒くれどもに「私の男たち」と呼びかけ、性的にも奔放ながら誇り高いグローニャは、村上海賊の娘の景(きょう)とも共通点が多いように思えます。「海の男」ならぬ「海の女」にも、共通点が多くなるのでしょうか。どちらの女性の場合でも、荒々しい自然や強力な敵に対峙する姿が魅力的です。

2014/5