りぼんの読書ノート

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ダンスシューズで雪のシベリアへ(サンドラ・カルニエテ)

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ラトビア外務大臣や各国大使を務め、現在も欧州議会議員である著者の生まれ故郷は、シベリアの寒村です。強制追放先のシベリアで出会って結ばれた両親が、スターリン死後の「雪解け」を機にラトビア帰還を許可されたのは1956年。著者が4歳の時のこと。

1918年にロシアから独立を果たしたバルト3国は、苦難の道を歩みます。1940年の独ソ不可侵条約の秘密議定書によってソ連に併合された3国は、翌年侵攻してきたドイツ軍を「解放軍」として迎え入れたため、ファシスト国家と見なされたんですね。

生きてラトビアに戻れなかった祖父母たちに捧げられた本書は、記録文書に記された事実と、家族の日記に基づくエピソードから成っています。囚人たちがシベリア各地を転々とさせられた記録と、当時まだ少女にすぎなかった著者の母親リギタが、たまたま持っていたダンスシューズで過酷なシベリアの冬を過ごしたという記述が組み合わされた効果は絶大。旧社会主義国官僚主義の弊害であった「辻褄あわせ」が犯した罪がなんと大きかったことか。

本書は、「ラトビアへの帰還、3人の兄との再会、家族の家を持つ」という3つの夢を全て叶えながら、「今も悪夢にうなされて目を覚ます」という、老いた母親の描写で終わっています。今また揺れているウクライナで、同じ問題を起こさせないためには何が必要なのかを考えさせられた、タイムリーな読書体験でした。「シベリア抑留という同じ体験をした日本人にこそ読んでもらいたい」との著者の願いが、本書に結実されています。

2014/5