りぼんの読書ノート

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満州国演義4 炎の回廊(船戸与一)

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シリーズ第4巻では、混乱の中で生れた満州国が歩み始めた苦難の道のりが描かれます。建国当初の抗日反満勢力だった寄せ集まりの「抗日義勇軍」に変わって、コミンテルンに指導される「抗日連軍」が、満州国内の反乱勢力となっていきます。現地事情に対する無知と怯えと高慢を原因とする日本軍による弾圧が、一般の満州人や朝鮮人を反乱へと追いやっていく悪循環の泥沼に、敷島4兄弟の運命もはまっていかざるを得ません。

満洲国建国に携わっている外務官の太郎は、この巻では情勢分析の語り手の役回りのようで、彼自身の行動は少々影が薄いのですが、「五族協和」が虚像にすぎないことを理解しながらもそれにしがみついているかのようです。ナチススターリンの虐待を受けるユダヤ人からの接触もありましたが、彼の運命はこの後、杉原千畝と交差することもあるのでしょうか?

馬賊の次郎は、相変わらず満州各地を転々としています。元馬賊仲間の裏勢力との交流や、満州国建国をインドや内蒙古の独立のために利用しようとする勢力との接触もあり、本書で「現地の声」を代弁している人物でもあるのですが、彼もやがて抗日連軍の掃討に関わっていかざるを得ません。

憲兵将校である三郎は、新京周辺の各地で頻発する事件の捜査と処理に追われます。満警も満軍も未熟で、司令官が射殺されて部隊がまるごと共匪に寝返る事件も起こるほどの混乱の中で、日本の下士官の横暴を随所で目のあたりにして、皇国に忠誠を誓う彼の理想は影響を受けるのでしょうか。

特務機関に弱みを握られた四郎は、指示されるままに半端仕事を転々としています。日本人武装移民の現状を調査し、朝鮮人入植村の悲惨な実態を視察する中で、厳しい現実を知るのですが、今度は天津の新聞社に派遣され、そこで御用記事を書くように命じられます。

コミンテルンや、欧米列強の思惑が渦巻く中で、中国本土も満州も揺れ動いています。蒋介石の国民党政府は毛沢東らの工農紅軍を狭西省に封じ込めますが、殲滅には至りません。親日派汪兆銘が狙撃され、国民党の路線が大きく「抗日反満」へと舵を切ろうとする中で、日本では「226事件」が起こります。

日本も満州も、新たな戦争に向かって大きく動いています。次巻はいよいよ「上海事件」から「南京虐殺」ですが、満州にいる敷島4兄弟はどのように関わっていくのでしょうか。

2010/9