りぼんの読書ノート

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満州国演義8 南冥の雫(船戸与一)

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真珠湾攻撃からシンガポール占領まで華々しく開始された南方の戦局は、ミッドウェー海戦を境にして一変します。空母、航空機、操縦士の喪失。暗号解読の疑惑。伸びきった補給線。陸軍と海軍の反目。そして何より「大本営発表」として事実が隠蔽されるようになった弊害。国内では東条英機による独裁体制が進展。

戦争突入後、日本の外交活動がほぼ停止した中で、傀儡国家にすぎない満州国の外務官僚である敷島太郎の仕事はほぼ消滅。本書においても戦況を解説する役割しか果たしていません。そんな中で浮気に走った太郎の家庭は完全崩壊してしまいます。

ガダルカナル、アッツ、ニューギニア・・。敗戦を重ねる南方に満州国の師団は次々と投入されていき、三郎が配置されたソ連国境警備師団は、戦力も装備も不足。満映に勤務していた四郎は関東軍の情報セクションに徴用されました。このあたりは最終巻で起こる悲劇の布石のようです。

満州馬賊から軍属への転身を余儀なくされていた次郎は、南方でインパール作戦に同行。もっとも杜撰な作戦で、もっとも悲惨な結果を招いた英領インド北東部への進攻です。糧秣も武器弾薬も尽き、撤退要請も拒否され、勝算なしの無謀な攻撃命令が出される中で、飢えとマラリアで3師団は壊滅。著者が「虫葬」と名づけた、蛆による白骨化死体を無数に残して撤退を余儀なくされる中で次郎も・・。

最終・第9巻のタイトルは「残夢の骸」とのこと。著者は「極限状態にこそ人間の本質が現れる」と述べていますが、敷島4兄弟は最も厳しい状況に置かれることになりそうです。もちろん、これまで死神のように敷島家につきまとってきた間垣徳蔵の素性も明らかになるとのこと。やはり彼はスメルジャコフなのでしょうか。

2014/6