りぼんの読書ノート

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満州国演義7 雷の波濤(船戸与一)

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皇紀2600年の式典が盛大に挙行された昭和15年(1940年)。日本の運命は、大東亜戦争に向けての大きなうねりの中に飲み込まれていくかのようです。

すでに前年に独ソ不可侵条約のもとでポーランド分割を完了させていたドイツ軍は、1940年の5月には西欧に矛先を向け、わずか1ヶ月でフランスを屈服させてイギリス軍をダンケルクに追い落とし、バトル・オブ・ブリテンを開始しています。その勢いに乗った日本の親独派は日独伊三国同盟を締結して仏印ベトナム)に進駐。そして昭和16年(1941年)。不可侵条約を破ったドイツ軍がソ連に侵攻する中で、日本は米英と開戦。滅びへの道を選んだのです。

時代が大きく動く中で敷島家長男の太郎は、満州国の高級外務官僚として情報収集に努めますが時代を動かせるわけもなく、かえって関東軍特務に協力させられたり、友人が治安維持法違反で逮捕されるのを傍観するだけ。一方では若い阿媽との浮気で家庭生活は破綻寸前。

馬賊の次郎は自由民であろうとするものの特務機関からの依頼を受けて、まるで日本軍の手先であるかのような動きを余儀なくされてしまいます。上海ではインド独立連盟の嬢子軍の訓練をし、香港から海南島にアウンサンの率いるビルマ独立義勇軍メンバーを送り込み、マレー半島では「マレーの虎・ハリマオ(谷豊)」を支援。日本の侵略戦争アジア諸国独立戦争という側面を持っていたわけですから複雑なものです。そして陥落寸前のシンガポールに潜入。

関東軍憲兵大尉の三郎もまた、山下奉文司令官の率いる第25軍についてマレー半島を南下する中で複雑なアジア情勢に触れていきます。イギリス軍に組み入れられながらも反乱をおこいかねないインド人部隊や、華僑に反感を抱くマレー人、そして東南アジアに「棄民」された日本人たち・・。

満州映画会社に就職した四郎は、企画部職員として満州国の五族に分け入ります。日本の支配が満州に産み落としたスラムの極限状態や、日本人移民とくじ引きで集団結婚させられるために渡満してきた東北の女性たちに出会って複雑な思いを抱きますが、しょせん無力な存在でしかありません。

敷島家4兄弟にまとわりついてきた陰湿な間垣徳蔵はスメルジャコフのように陰湿な存在であり、本巻でも弱みを握った太郎に暗殺を手伝わせたりするのですが、国内の政治情勢を冷静に分析しており、日米開戦に反対するなどリベラルな考えの持ち主のようです。戊辰戦争会津落城の場面で始まった本書ですが、カラマーゾフ家を思わせる敷島家と間垣との相関は最後に明らかにされるのでしょう。満州国滅亡まであと4年。

2013/3