「ハリー・ポッター・シリーズ」の著者による新作です。イギリスの郊外町パグフォードで教区会評議委員を務めているバリー・フェアブラザーという住人が、40代という若さで突然亡くなったことから巻き起こる騒動を描いていきます。タイトルは議員の死去などによる「突然の空席」という意味。
もともとパグフォードでは、貧困層が多く住むフィールズという地域の帰属が問題になっていました。亡くなったバリーは自分の出身地であるフィールズを支援していたのですが、空席をめぐって激しい争いが巻き起こります。
それはフィールズ支援派と反対派の争いというだけではありません。職業、貧富、人種や、単なる好き嫌いをも含むさまざまな対立が表面に出てくるのです。しかも大人たちの対立は、ティーンエイジャーの子どもたちも巻き込んでいくのです。
本書に描かれている貧困、格差、ドラッグ、家庭内暴力、いじめ、差別、児童虐待などの問題は、どの町にも存在するものでしょうが、表面化するまでは陰湿に隠されていることが多いのでしょう。それだけに被害者は息を潜めて耐えることを要求されてしまう。「ハリー・ポッター」で世に出る前の著者は、貧しいシングルマザーとしての被害者サイドに身を置いた経験もあるのでしょう。
2巻シリーズの第1巻の大半は、事件の背景と数多い登場人物の紹介に費やされています。選挙に出ようとする父親を嫌う息子が、父親の犯罪的行為を告発する文書を市のサイトで公表するところで終了。間違いなく、この行為が火をつけましたね。第2巻で物語は大きく動き出すはずです。
角田光代さんの書評に「ハリー・ポッターの作者は、この醜悪な現実にファンタジーも魔法も持ちこまなかった」とありました。おそらく仲裁者/理解者であるダンブルドア的な存在も登場しないのでしょう。しかし、それが現実なのです。
2013/3