りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

カジュアル・ベイカンシー 2(J.K.ローリング)

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貧困地区フィールズを支援していた若き教区会評議委員バリーの突然死による補欠選挙をめぐって、町の大人たちの対立が先鋭化していく中で、ティーンエイジャーの子どもたちが抱えていた不満も一挙に噴出。

亡くなった議員の名前を使い、市のサイトに父親の犯罪的行為を書き込んだ少年に続いて、女医である母親の偽善を告発する少女、中学の副校長を努める父親の性癖を貶める少年らが現れ、大人の世界もかき回されてしまうんですね。犯罪を告発された父親は解雇され、女医は議会で暴言を吐いて停職処分となり、副校長は学校恐怖症になってしまいます。

嫌っていた親に復讐して一時的には溜飲を下げた子どもたちでしたが、悪意ある言動は別の災いをもたらさざるを得ません。子どもたちの反乱もあってフィールズ擁護派は選挙に惨敗。フィールズ切捨てが決定的になり、ヤク中の母親の更生を信じられなくなった女生徒の行動をきっかけとして、ついに悲劇が・・。

本書の評価は、悲劇を通してそれぞれ別の局面に移行した人間関係、とりわけ親子関係に「救い」を読み取れるかどうかで分かれるのではないかと思います。死者の思い出は聖められるのか。そうすることによって、生き続ける者たちは変われるのか。それだけでは済まないはずですが、ファンタジーも魔法も、ヴォルデモーアもダンブルドアも登場しない現実世界においては、そういう側面もあると思わなければ、やりきれませんね。

本書には、イギリスの閉鎖的な田舎町で貧しいシングルマザーとして苦しい生活を送っていた、デビュー前の著者の「怨念」が込められているという人もいるようです。「怨念」はともかくとして、著者自身も町の人たちの醜悪な面をよく観察していたものだと感心してしまいます。たぶん個々のエピソードにはモデルもいるのでしょうから・・。

2013/3