りぼんの読書ノート

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エデンの東 下(ジョン・スタインベック)

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アダムの妻キャシーは、双子の男児を出産した直後に失踪。彼女はサリナスの町に出て娼館に入り、やがて女主人を殺害して経営を乗っ取る悪事を働くのですが、その事実は誰にも知られていません。一方のアダムは失意と絶望のどん底に陥り、友人のサミュエル老人にせかされるまで双子の名前すらつけないでいた始末。双子は聖書の「出エジプト記」からケイレブ(キャル)とアロンと名付けられますが、兄弟の相克関係は彼らの世代でもまた、繰り返されることになるのです。 

 

サミュエルの真摯な友情によって自己を取り戻したアダムは、リーの助けを得て双子の息子たちを育て上げますが、青年期を迎えた時には彼らの性格は対照的になってしまいました。弟のアロンは純真である一方で、兄のキャルは有能ながらひねくれ者と言われるのです。しかし家族の暖かさを求め、父親の愛に飢えていたのはキャルのほうでした。この複雑な青年を、若きジェームズ・ディーンが演じたわけです。 

 

やがて死んだと聞かされていた母親キャシーが生きていたことを知ったキャルは、母親のもとへと向かうのですが、それは新たな悲劇の始まりでした。キャルも心の奥底では純真で脆い青年にすぎず、アロンとはその発現の仕方が異なっていただけだったのですから。父親から拒絶されたキャルは絶望のあまり、母親の真の姿をアロンに伝えてしまいます。 

 

悲劇的な作品の中で本書で救いとなるのは、美しい少女アブラの存在です。アロンと交際していたアブラは、激しく自責するキャルを立ち直らせる存在となるのでしょう。そしてもうひとつの救いは、悪女キャシーが死の寸前になって幼女の純真な心を取り戻したと思えること。聖書をモチーフとしていないこの場面こそが、著者が本当に書きたかったことではないかとすら思えるのですが、見当違いかもしれません 

 

2020/5