りぼんの読書ノート

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ルパン傑作集3.奇岩城(モーリス・ルブラン)

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ルパン・シリーズ初の長編である本書は、天才高校生イジドール・ボートルレが探偵役であるせいか、ジュブナイル版も多く出されています。昔読んだのは、それだったのでしょう。

ノルマンディーのジェーブル伯爵邸で発生した殺人事件と絵画盗難事件の謎を追って、高校生探偵イジドールとルパンの対決が始まります。逃走中にレイモンド嬢に撃たれた男はどのように脱出したのか。礼拝堂の地下室にあった死体は誰なのか。誘拐されたレイモンド嬢と少年の父親はどこにいるのか。「針の城」と解読できる紙片の意味は何なのか。わくあくする展開です。

全ての謎を解いて「針の城」をつきとめ、囚われていたレイモンド嬢と父親を奪還したボートルレは、ルパンを破った英雄として扱われますが、それは単なる始まりにすぎませんでした。ルパンが隠し通そうとした真相は、ジャンヌ・ダルクマリー・アントワネットも関係したフランス王家の財宝をめぐる壮大なものだったのです。再度ルパンの秘密に迫るボートルレでしたが、悲劇的な結末が待っていようとは・・。

本書はミステリ的な謎解きよりも、冒険小説的な色彩が濃いようです。それは著者が、コナン・ドイルの影響から脱して独自の境地に至ったことの現われなのでしょう。事実、これまでルパンのライバルとして登場させていたイギリス人探偵エルロック・ショルメ(シャーロック・ホームズアナグラム)は、この後の作品にはほとんど顔を見せなくなってしまいます。本書でもイジドールの引立役にすぎない情けない役割しか果たしていません。

しかし、ルパンという人物は何とも謎めいています。「フランス的美意識に基づいた独特のヒロイズム」ということなのでしょうが、愛国心が強く、犯罪予告という「劇場型犯罪」を好み、超人的な活躍をしながらも愛する者のために全てを捨て去るというのですから。でも後に「怪人二十面相」や「ルパン三世」のモデルとなって、日本人から親しまれることになるとは知る由もなかったでしょうが・・。

「奇岩城」のモデルとなった針状の巨岩がノルマンディーのエトルタ海岸にあることは有名です。いつか行ってみたいものです。

2012/2