りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

量子怪盗(ハンヌ・ライアニエミ)

イメージ 1

遠未来。小惑星群に「囚人のジレンマ監獄」に「偽神(アルコーン)」によって幽閉されていた男、量子怪盗ジャン・ル・フランブールを脱獄させたのは、高度な戦闘力を備えた美少女ミエリ。「開祖たち=精神共同体(ソボールノスチ)」のひとりである「集合的ペレグリーニ」に雇われている美少女は、火星であるものを盗んで欲しいというのです。

2人がたどり着いた火星の移動都市ウブリエットは、「時間」が価値を有する世界。生身の身体の時間が尽きると、「死せる魂(ゴーゴリ)」は作業用機械に詰め込まれて静者(クワイエット)となり、過酷な労働に従事しながら復活の時を待たねばならないのです。折りしも死を迎えようとしている千年紀長者が開くパーティに届いた盗難予告を防ぐために雇われたのは、気鋭の青年探偵イジドール。

かくして怪盗と探偵の対決・・といきたいところですが、火星の状況は複雑です。ふたりとも、かたやマスクをかぶった正義の自警団と、かたや惑星をまるごと裏からマインドコントロールしている陰謀団の対決に巻き込まれてしまいます。しかもイジドールは、自警団のひとりであるレイモンドと、怪盗ジャンの間に生まれた息子らしいのです。

理解困難なハイテク・ガジェットと、異常なまでに説明不足の背景と、ルパン・シリーズへのオマージュが絡み合い、難解な世界を作り上げています。怪盗ジャンが盗み出さなければならないものは、自ら封印した彼自身の記憶だったのですが、まるで「奇岩城」のような「記憶の宮殿」の鍵が開いたときに何が起こるのでしょうか。

本書は全3部作の第1作だそうです。「クラッシュ」とか「木星スパイク」とか、そして万能の神のような「開祖たち」とも知り合いであったような怪盗ジャンの正体なども、続編で明らかになるのかもしれません。それまでの間、仮想空間が現実空間を取り込んでしまったような本書の世界について、想像を膨らませておきましょう。

2014/1