りぼんの読書ノート

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出訴期限(スコット・トゥロー)

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『囮弁護士』で語り手役を務めたジョージ・メイソン判事を主人公とした作品です。もちろん「キンドル郡シリーズ」の一環であり、出番は少ないながらサビッチやモルトもキーポイントで登場します。

上訴裁判所判事のメイソンは苦悩していました。世論が厳罰を望む悪質なレイプ事件には、「出訴期限の超過」という法手続き上の瑕疵がありました。犯行当時に意識を失っていた被害者が、事件を認識したのは数年後にビデオを見せられてからだったのです。それだけではありません。この事件の本質は、当時は問題にもされなかったジョージ自身の学生時代の愚行と酷似していました。現代アメリカ版の「罪と罰」の物語が始まります。

追い討ちをかけるように、メイソンに対して脅迫状が舞い込み始めます。物語は、脅迫犯人の捜査と、判決を巡る裁判官の苦悩の二本立てで進行するのですが、2つの事件は関連しているのでしょうか。メイソンは、過去の愚行の相手を探し出して、連絡を取ろうとするのですが・・。

著者の他の作品と異なり、法廷における丁々発止のやり取りや、二転三転する裁判の行方は描かれません。また、著者の作品に特有の「家族の問題」が占める割合も大きくないのです。その意味では面白みに欠けているのですが、その分、判決を出すに至るまでの裁判官の心の揺れや悩みが過丁寧に書き込まれています。結論となった「隠蔽策に関する規定」の解釈は見事なのですが。

2014/1