りぼんの読書ノート

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二人のガスコン(佐藤賢一)

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主人公の「2人のガスコーニュ人」とは、『三銃士』のダルタニャンと、従妹ロクサーヌに純愛を捧げる戯曲で有名なシラノ・ドゥ・ベルジュラック。どちらも同時代に生きた実在の人物をモデルとした小説で有名です。

本書の物語は、デュマの「ダルタニャン物語」第1部:三銃士第2部:二十年後の間のエピソードという設定。銃士隊の仇敵だったリシュリューは既に亡く、幼王ルイ14世と大后アンヌ・ドートリッシュを補佐する宰相マザランの時代となっています。

そのマザランから、ガスコンの2人に不思議な特命が下ります。かつてリシュリュー派の銃士隊長であったカヴォアの娘マリーを監視せよというのです。さらに、マザランの政敵でルイ14世の叔父にあたるオルレアン公からも接触を受け、陰謀の匂いを感じた2人は、「鉄仮面」の噂を追ってスペイン国境とアビニョンへ。やがて浮かび上がってきたのが、ルイ14世の出生の秘密でした。

冷静かつ迅速な行動力を持つダルタニャンと、鋭い直感と類い稀な想像力を持つシラノは対称的ですが、共通点は「極めて高い血の温度を持つ」熱血漢であり、女性に対しては純情派ということ。ダルタニャンは彼のために命を落したコンスタンスを忘れられず、シラノは従妹のロクサーヌに無償の愛を捧げ続けているのです。この2人に弁護士ル・ブレと新聞記者ピエールが加わって繰り広げられる大冒険活劇は、三銃士こそ登場しませんが、デュマの本編さながらの面白さ。しかも、史実や当時の噂を巧みに取り入れているのは、さすがです。

「鉄仮面」に関してはデュマの(第3部:ブラジュロンヌ子爵とは異なる解釈ですが、本書の推理も良くできています。やがてダルタニャンは、時にはマザランの命令に背きながらも、フランスの絶対王政確立に協力していくのですが、その伏線にもなっています。そして、彼がついに、生涯を共にする伴侶とめぐり合えなかった理由にも・・。

使命を果たし終えた2人が、それぞれの道を歩むために別れていく最終章は感動的です。

2014/1