りぼんの読書ノート

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旅する力-深夜特急ノート(沢木耕太郎)

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1970年代前半に、香港を経由してデリーからロンドンまで乗り合いバスで旅をした著者が、『深夜特急シリーズ』の「最終便」として2008年に綴ったエッセイです。

著者がノンフィクション・ライターとして独り立ちするまでのエピソードにも興味深いものがありますが、やはり多くの読者をひきつけるのは、『深夜特急』の裏話部分と、旅に関するコメント部分でしょう。そしてそれは、旅にロマンを求める多くの読者に共感されたのではないでしょうか。

たとえば著者は、「旅には適齢期がある」と言い切ります。未経験者が新たな経験をして、それに感動することができるためには、ある程度の経験が必要だというのです。著者がバックパッカーの旅に出た26歳という年齢は、期せずして「適齢期」だったのですね。「旅」ではなく「旅行」しかしていませんが、年齢とともに旅行のあり方が変わるべきであることは実感できます。

また著者は、「わかっているのは、わからないということだけ」であり、「旅で学んだことは、自分が無力だということ」とも述べています。「移動」によって巻き起こる「風」を受けて感じることは、まさしく自分自身の「背丈」なのではないかと思います。

言語学者大槻文彦氏が『大言海』にまとめた旅の定義とは、「家ヲ出デテ、遠キニ行キ、途中ニアルコト」だそうです。しかし旅は終わらなければなりませんし、旅について綴るということは、その旅に決着をつけるということなのでしょう。しかし、「次の旅」を始めることはできるのです。「恐れずに。しかし気をつけて」。

2014/1