りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

虎の牙(モーリス・ルブラン)

イメージ 1

813事件の後で死を噂されたルパンが、スペイン貴族ドン・ルイス・ペレンナとして再登場した3部作の最後の1巻。これまで数々の女性と浮名を流し、悲劇的な恋を経験してきたルパンが、ついに最愛の女性と巡り合って「引退」するきっかけとなった事件です。

大富豪のコスモ・モーニントンの2億フランの遺産相続人イポリートと息子エドモンが殺害されてしまいます。現場に残された歯形と一致した妻マリー・アンヌも、彼女に愛情を捧げていたガストンもまた相続権を有していたことから容疑がかかります。

故人の友人であったルイス・ペレンナ(ルパン)は、遺言状で相続人の探索を委ねられたのみならず、相続人が全員死亡の場合に相続権を得るとされており、彼も嫌疑を免れません。しかもルパンの秘書フロランス=ルバッスール嬢は不審な行動をとるのですが、ルパンはそんな彼女を愛するようになっていくのですから始末が悪いですね。

いったんは危地に陥ったルパンの謎解きによって、マリー・アンヌとガストンの嫌疑は晴れたものの、時すでに遅し。2人とも牢内で自殺してしまった後でした。そして、相続権を持つ最後の一人であると判明したのがフロランスだったのですが・・。

人の心を巧みに操って犯罪を起こさせる恐るべき真犯人は、物語の最後まで登場しませんので、本書の「ミステリ」としての完成度は低いのでしょう。しかし本書の真骨頂は、今まで隠されていたドン・ペレンナとしてのルパンの活躍にあるようです。モロッコ外人部隊に入隊したルパンは、現地に召集したかつての60人の部下とともに1万人のベルベル人を率いて、アフリカ北西部全域を支配化に置くモーリタニア帝国の皇帝、アルセーヌ1世となっていたというのですから。

広大な帝国をフランスに差し出して、愛するフロランスを追うルパンの恋は、今度こそ報われるのでしょうか。冒険家でロマンチストのルパンにとって、ラストを締めくくるのにふさわしい大活劇です・・と言い切りたいのですが、ルパンと戦争は似合いませんね。

本書が帝国主義的かつ人種差別的な内容を含んでいることは、時代の制約ですので仕方ありませんが、ルパンのキャラと活躍は、第1次世界大戦前のベル・エポックの時代にこそ相応しかったように思えてならないのです。

2013/5