りぼんの読書ノート

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金三角(モーリス・ルブラン)

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新潮文庫版の「ルパン傑作集」全10巻には収録されていない作品です。続813のラストで自死を装ったルパンが、スペイン貴族にしてフランス外人部隊の英雄、ドン・ルイス・ペレンナとして再登場する3部作の第1作。

第一次世界大戦の最中、フランスから莫大な金を流出させようとする悪漢の試みをルパンがくじく物語ですが、本線はむしろ、悪漢エサレス・ベイの美貌の妻コラリーを愛した傷病兵パトリス・ベルヴァル大尉のラブ・ストーリー

志願看護婦だったコラリーを愛するようになったパトリスは、彼女を暴漢から救出するのですが、襲われたのは彼女だけではありませんでした。悪漢たちの仲間割れなのか、夫のエサレスも殺害されてしまいます。不思議なことに、犯人とおぼしき執事の老シメオンの部屋には、コラリーとパトリスの幼少時からの写真が・・。

やがて、コラリーの母親とパトリスの父親が恋人同士でありながら同じ日に死亡したという過去が明らかになり、しかもシメオンこそが実は生きていたパトリスの父親ではないかとも思われるのですが、彼の行動は矛盾しています。金の横取りや、パトリスの殺害までも試みるのですから。果たして彼の正体は?

というところで、ようやくルパン登場。パトリスの傷病兵仲間が外人部隊でルパンの部下だったとのことで、応援に呼ばれたんですね。たちまち恐るべき犯人と対決して、一度は裏をかかれるものの、事件を解決に導きます。しかし、ここでルパンはフランス愛国者としての一面を発揮するのです。

著者はルパンに、「おかしいことだが、歳をとるにつれて自分の評判が気になってくる。鬼の目に涙かな」などと言わせていますが、このトーンは「ドン・ルイス・ペレンナ3部作」を通じて変わりません。やはり、戦争という時代が、著者とルパンを愛国者にしてしまったのでしょう。

「金三角」の意味は、金の隠し場所というより、金の隠し方ですね。ポーの『盗まれた手紙』がヒントだとはっきり言わせてしまうあたり、著者もルパンも正直なものです。コラリーとパトリスは・・もちろん結婚しちゃいます。

2013/5