りぼんの読書ノート

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巣窟の祭典(フアン・パブロ・ビジャロボス)

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メキシコ出身の若い作家のデビュー作「巣窟の祭典」と第2作「フツーの町で暮らしていたら」が収録されています。デビュー作では子供に、第2作ではティーンエイジャーの少年に語らせていますが、著者は後書きで「次作では老人が語り手となる」と述べていました。先に読んだ『犬売ります』が第3作だったのかもしれません。

 

「巣窟の祭典」

地方の麻薬王の息子として生まれ、外の世界を知らずに育った子どもが語る日常生活は、茫洋としていて掴みどころがありません。父親と10数人の子分しか知らず、家庭教師と本とテレビとゲームによる知識しか持たない彼の世界観は、「大局をとらえ損なって」いるのです。しかしこの物語が醸し出す閉所的な圧迫感は、メキシコという国の現状を、ある意味で正しくとらえているのでしょう。子どもがトチトゥリ(うさぎ)、父親がジョルカウト(ガラガラヘビ)、家庭教師がマツァツィン(鹿)、父親の愛人がケチョーリ(インコ)など、登場人物たちが皆、メキシコ先住民の言語による動物の名前を持っていることにも、この作品の寓話性が現れているようです。

 

「フツーの町で暮らしていたら」

この作品は「どうしようもなくバカバカしいような小説を書くこと」を目的として書かれた作品だそうです。メキシコ中部の最もメキシコらしい州の田舎町に育った、7人の子どもを持つ貧しい田舎教師の次男が不思議な家出をする物語。7人の子どもたちが皆ギリシャ神話にちなんだ名前を持っていることは、運命的な悲劇を暗示しているのでしょう。「80年代の不正選挙」、「シナーキスト(陰謀信奉者)」、「牛の人工授精」、「ポーランドからの移民」、「宇宙人」、「双子の誘拐」などを全部一緒にしてミキサーにかけて生み出されたという作品は、大筋はあるものの意味不明。もっともそれが著者の目的のようです。

 

2021/7