りぼんの読書ノート

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鬼殺し 上(甘耀明)

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本書に描かれた時代は、1941年12月の太平洋戦争勃発から、1947年の2・28事件まで。日本による統治から中国国民党による支配への移行という動乱期を生きた、台湾の少年と祖父を、マジック・リアリズムの手法を用いながら描いた作品です。上巻は、日本の敗戦まで。

物語は、関牛窩(グァンニュボー)という架空の村に、日本兵を乗せた汽車がやってくる場面から始まります。とてつもない怪力を見込まれた少年・劉興帕は、日本軍中佐の養子となって日本名を名乗り、志願兵として入隊。少年部隊「白虎隊」を指揮する軍曹に抜擢されます。しかし少年の祖父・劉金福は、日清戦争後の台湾割譲に抵抗した義勇軍の生き残りであり、孤独で無力な抵抗を続けていました。

本書の「鬼王」とは義勇軍棟梁であった呉湯興のことであり、当時の戦いで戦死して後も、この地に魂魄が残っている存在。怪力少年の劉興帕には「鬼」を見る能力が備わっているのですが、やがて彼は歴史の目撃者であり続けた「鬼王」から、本当の死を与えて欲しいと頼まれることになります。しかしそれは「下巻」の物語。「上巻」では、日本軍占領下の台湾で起きた、滑稽な悲劇が綴られていきます。

徴兵された父親を列車に乗せないために、父親と一体化して駅の柱に絡みついて生きる少女。満州を走る特急列車「あじあ号」に憧れ、設計者が汽車に潜ませるという秘密を見出そうとする釜焚きの少年。火の卵を投下する鉄の鳥(B29)に素手で挑む特攻少年。体内で火が燃えたまま生き続けるホタル人間。美少女ながらシャム双生児として生まれた慰安婦。彼らは皆、戦争の中で消費されてしまうのですが・・。

清朝に捨てられ、日本からは同化を迫られながら二級国民と見なされ、連合軍からは攻撃され、後には中国本土の国民党に支配・虐殺される台湾人。しかもその前から、台湾の各民族と中国からの客家は、決して一体化していたわけでもないのです。著者自身が「行くところも帰るところもない鬼の島」と呼ぶ台湾の悲劇は、下巻でクライマックスに達するようですが、文章と物語の迫力に押されて少々疲れました。少し時間を置いてから取り掛かろうと思います。

2017/10