りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017/10 鬼殺し(甘耀明)

冲方丁さんの最後のラノベという「シュピーゲル・シリーズ」が完結しました。10年に渡って書き継がれたため、物語の想定年であった2016年を現実が追い越してしまったとのこと。さすがに「転送技術」は実用化されていませんね。全13巻分を纏めて「特別」扱いにしました。
今月は、台湾のアイデンティティ問題を描き出した『鬼殺し』と、韓国発の脳内スマッシュ炸裂小説『ピンポン』を1.2位に選びました。両方の作品に共通するキーワードは「迫力」です。


1. 鬼殺し(甘耀明)(上巻) (下巻)
日本による統治から中国国民党による支配への移行という動乱期を生きた台湾の少年は、なぜこの地に魂魄を残していた「鬼王」を殺害するに至ったのでしょう。清朝からも、日本からも、大陸の国民党からも共産党からも恩恵を受けることがなかった台湾とは、あの世とこの世の間を彷徨う「鬼」たちが住まう島でしかないのでしょうか。重量感たっぷりの作品です。

2.ピンポン(パク・ミンギュ)
全人類から「アチャー」されている、苛められっ子の釘とモアイは、原っぱに放置されている卓球台を見つけます。やがて2人はペアを組んで、人類をアンインストールする選択権を賭けた果てしない卓球の闘いに赴かされるとも知らずに・・。しかし問題は、彼らの勝敗ではないのです。疾走感あふれる作品でした。

3.黄昏の彼女たち(サラ・ウォーターズ)
第一次世界大戦後のロンドン郊外で、屋敷と母を養うために同居人を置くことにしたフランシスは、若妻リリアンと恋に落ちてしまいます。しかし本書は単なるレズビアン小説ではなく、下巻の展開は息をつかせないほど。現代の名手である著者の圧倒的な描写力には、いつも引き込まれてしまいます。




2017/10/30