りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。
長編小説部門(海外)

鬼殺し(甘耀明)カン・ヤオミン上巻 下巻

日本による統治から中国国民党による支配への移行という動乱期を生きた台湾の少年は、なぜこの地に魂魄を残していた「鬼王」を殺害するに至ったのでしょう。清朝からも、日本からも、大陸の国民党からも共産党からも恩恵を受けることがなかった台湾を、あの世とこの世の間を彷徨う「鬼」たちが住まう島として描いた、重量感たっぷりの作品です。

他の候補は、著者が作家となった決意が生まれる過程を静かに描いた私の名前はルーシー・バートン(エリザベス・ストラウト)、大作家の最後の小説となったヌメロ・ゼロ(ウンベルト・エーコ)、韓国発の脳内スマッシュ炸裂小説ピンポン(パク・ミンギュ)、超ハードSF三部作の最終章アロウズ・オブ・タイム(グレッグ・イーガン)など。

長編小説部門(日本)

騎士団長殺し(村上春樹)

同じテーマの繰り返しとなどとも言われていますが、異なる角度から掘り起こされたものは、やはり毎回異なっているのです。男女の違いこそあれ著者の分身のような主人公が絶望の底から這い上がる静かな闘いの物語は、ストーリー・テラーとしての力量を見せてくれただけでなく、感動的ですらありました。文句なしに今年のナンバーワン作品でしょう。

他の候補は、いつもながら禁欲的な描写が素晴らしいスウィングしなけりゃ意味がない(佐藤亜紀)、著者2度目の直木賞候補作となった夜行(森見登美彦)、北方水滸伝(全51巻)の最終章となった岳飛伝 17など。

短編小説部門

ジュリエット(アリス・マンロー)

2013年に絶筆宣言をした著者ですが、未翻訳の作品はまだまだありそうです。人生を変えた一瞬を切り取る描写は、他の作家の追随を許しません。しかしその一瞬を悔やんでも仕方ありませんね。懸命に生き抜いた者の人生は、後から振り返ってみると豊饒なのです。

他の候補は、父親譲りの描写力を発揮した煉瓦を運ぶ(アレクサンダー・マクラウド)、アジア的SF世界を開いた著者の第2短編集母の記憶に(ケン・リュウ)、戦前のカリフォルニアを生きた日系人移民、中国系移民の物語を全く異なった作風で描いた屋根裏の仏さま(ジュリー・オオツカ)チャイナ・メン(マキシーン・ホン・キングストン)など。

ノンフィクション部門

プラネットアース(アラステア・フォザギル)

2006年にNHKスペシャル枠で11週に渡って放映された、自然ドキュメンタリーシリーズを概括した愛蔵版です。地球上の各地での地形形成と気象影響を説明したうえで、そこに生きる動植物の課題を明確にしていく構成は体系的であるだけでなく、そこで懸命に生きる動植物の生態は感動的なのです。新シリーズの放送開始を機会に読んでみましたが、今でも色褪せてはいません。

塩野七生さんのギリシア人の物語はまだ途中ですので対象外。他の候補は、移民文学の第一人者が新たに習得したイタリア語でローマ生活を綴ったべつの言葉で(ジュンパ・ラヒリ)、まだ旅行の記憶も新しい地域が舞台になっているナチ略奪美術品を救え(ロバート・M・エドゼル)など。

今年も素晴らしい本とたくさん出合えました。2018年もいい1年にしたいものです。家庭も、仕事も、読書も、そして健康も。来年もよろしくお願いいたします。

2017/12/29