りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

与楽の飯(澤田瞳子)

イメージ 1

東大寺大仏建立のために徴用された人々の姿を描いた小説というと、帚木蓬生さんの国銅が思い浮かびますが、テイストは異なります。そちらが「大河ドラマ」なら、連作短編集である本書は「土曜時代劇」という雰囲気です。

近江から徴用されて造仏所の仕丁となった真楯(またて)の視点から、炊屋(かしきや)の炊頭である宮麻呂の周囲で起こる事件を描いた物語のテーマは「信仰」ですね。多くの人々の生活を犠牲にして造営される大仏に価値があるのか。仏とは何なのか。天皇から奴婢に至るまでの各階層で抱かれたはずの疑問が、死期を迎えた行基と宮麻呂の因縁に収斂されていきます。

その過程で、大仏建立の工程、役部署の役割、徴用の仕組みなどの紹介と、そこに携わるさまざまな人々の思いが描かれていくわけです。そういうミクロの物語があるから、多くの人々の生きた証として遺された大仏は尊いという、逆説めいた結論も生きてくる。陸奥の金という大仕掛けを使うまでの配石も巧みです。

ひとつだけ難を言うと、漢字が難しい。真楯や宮麻呂はまだしも、馬馗(うまくび)、鮠人(はやと)、舎薩(しゃさつ)、小刀良(ことら)、小槻(おづき)、猪養(いのかい)、牟須女(むすめ)という人名は、少々キツかった・・。

2017/3