海洋SF小説『華竜の宮』の著者による、海洋冒険小説です。トラファルガー海戦という史実をベースとし、ありえたかもしれない実験的な汽帆船と、ファンタジー的な海洋生物を操る孤島の民を登場させ、少年の成長を描くという、欲張った内容。
主人公は、イギリス海軍に徴用された孤児トビー。ナポレオン時代のフランス海軍と交戦中に遭難した少年を救出したのは、極秘任務を帯びた軍艦のセント・イージス号。この船は、開発されたばかりの蒸気機関を取り付けた実験船であるだけでなく、10代から20代の若者たちによって操艦されていたのです。トビーはそこで、巨大な海洋生物を操る不思議な少女・ファーダと出会い、心をときめかせます。
しかしトビーらを待ち受けていたのは、フランス海軍との激戦でした。しかもフランス軍も、やはり海洋生物を操る能力を持ったファーダの姉を捕えて、使役していたのです。やがて英仏両軍は、ナポレオン戦争における最大の激戦地となったトラファルガー沖で合いまみえることになるのですが・・。
主人公が少年少女であったため、YA小説っぽいのですが、構成も展開もしっかりしています。とりわけ、蒸気船の歴史の中に実験的な汽帆船を紛れ込ませた発想は、見事です。
2016/1