りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ふる(西加奈子)

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池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われず、癒し系の存在であることに全力を注いでいますが、それは優しさではないことには気づいています。ポケットにしのばせているICレコーダーで日常会話を隠し録ることを趣味にしていますが、それは毎日の瞬間を忘れないためなのでしょうか。誰もが「白くてふわふわしたもの」を持っているのが見えるのですが、それは何を意味しているのでしょうか。

不思議な小説ですが、テーマは明確です。花しすが、自分が望んでいたことに気づき、「白くてふわふわしたもの」の意味を理解するまでの物語。重要な伏線もあるのです。ひとつはポジティブな言葉が「空から降ってくるように」見えること。もうひとつは、花しすの前に繰り返し現れる、何人もの「新田人生」を名乗る男たち。冒頭の個人タクシーの運転手、祖母と出かけた動物園にいた青年、公園で通せんぼする男子児童、高校時代の老教師、初めて参加した合コン相手、そして本書に登場してこない会社の同僚・・。

忘れたくないということは、忘れられたくないということ。匿名の存在とは、忘れても構わないと思っている人のこと。それでも人は繋がっていて、祝福を受け続けていること。花しすが毎日写真で接している女性器だって、人が生まれてくるところとして、聖的な意味を帯びて来るようです。著者の感性はかなり独特ですが、最近気に入っているのです。

2017/3