りぼんの読書ノート

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キャッツ・アイ(マーガレット・アトウッド)

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語り手は著者自身の面影を宿した50歳の女流画家、イレイン。画廊での回顧展が開催される故郷トロントに戻るところから、彼女の半生が振り返られます。彼女にとって過去とは、「後になって安全な距離ができたときにはじめて眺めることができる」ものだったのです。

少女時代のイレインは、3人の女生徒たちから陰惨なイジメを受けていたのです。その背景には、昆虫学者であった父親の仕事のために森で過ごしたことや、イレインの一家が無宗教であったことにも原因があるようです。戦後のカナダ都市部で白人中産階級の新教徒が力を得るようになったことと無関係ではないようですが、幼い少女にとってそのようなことは何の慰めにもなりません。ひたすら自分が異質で無価値な存在と思い込まされ、無理な要求を繰り返す女生徒たちから離れることもできないでいたのです。

そんなイレインにとって転機となったのは、氷が張った川に入るよう命じられて生命の危険すら感じたときでした。聖母マリアの幻視の導きで助かったイレインはいじめっ子たちの弱さを理解し、この事件を境として彼女たちの立場が逆転していきます。やがて彼女は、そのトラウマを絵に顕わすことによって、呪縛からの解放をめざし、自己を確立していくのです。やがて画家仲間のダメ男と誤った結婚をし、娘をさずかりながらも離婚を決意するに至る強さも、その時に得たものなのでしょう。

タイトルの「キャッツ・アイ」とは、子供時代の宝物であり、いつもポケットにしのばせていた猫目模様のビー玉のこと。大人になったイレインが過去を振り返り、自分自身のみならず、家族やイジメッ子たちや画家仲間や夫たちの心情を冷徹に振り返る、芯の強さを象徴している存在のようです。

2019/3