りぼんの読書ノート

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ミニチュア作家(ジェシー・バートン)

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昨年アムステルダムのオランダ国立美術館を見学した際に、「ペトロネラ・オールトマンのドールハウス」を見ました。17世紀オランダで流行した精巧なミニチュアハウスで、本物の家1軒に相当する費用がかかっているとのこと。3階建て9室を飾る数百点の調度品が、背景の絵画や陶器に至るまで、各分野の名工によって本物と同じ素材で丁寧に作りこんであるのです。

本書は、持ち主であったペトロネラを主人公として、このドールハウスが出来上がるまでの数奇な物語。18歳で年の離れた裕福な商人ヨハンネス・ブラントに嫁いだネラを待っていたのは、期待と異なる孤独な生活でした。商売に忙しい夫は不在がちで、家を仕切る年上の義妹からは小娘扱いされる日々。

そんな中で、夫から結婚祝いに貰ったドールハウスを飾るために次々と送り届けられる人形は、家族や使用人にそっくりであり、しかも未来を暗示しているようなのです。ドールハウスに幽閉されてしまったかのような心理に落ち込んだネラは、ドールハウスの作者を訪ね歩く中で、家族の暗い秘密を知ってしまうのですが・・。

このドールハウスが、ネラの旧姓である「オールトマン」の持ち物とされている点は重要です。彼女がブラント家でヨハンネスと添い遂げなかったことは、はじめから明かされているのです。著者が編み上げた物語は、ドールハウス内に生き続ける人物のみならず、不在の人物までしっかりと描き切りました。ネラが最後に入っていったのは、現実の屋敷なのでしょうか、それともドールハウスなのでしょうか。

2019/3