摂津の武庫国から大坂天満の呉服商・五鈴屋に奉公に出た少女・幸の数奇な運命は、『前巻・貫流篇』までで、一応のおさまりを見ています。放蕩の末に事故死した4代目、商才はありながら人望がなく自ら店を去った5代目に次いで、優しいものの商才はない6代目の3兄弟と連続結婚して、実質的な女主人となったのです。
本巻では、高齢で病を得た老舗の主人に頼まれて、五鈴屋よりも大規模な桔梗屋を買収。いよいよ本格的な事業拡大に乗り出します。この時代にPMI(post merger integration)などという言葉はありませんが、人材交流を含む両店の融合を図ってシナジー効果を得ていく過程は鮮やかです。ライバル会社の卑劣な商法は相手にせず、ひたすらオリジナルのビジネス拡大策を追及する姿勢も見事です。そして江戸出店という大事業のために、ひたすら調査と準備を重ねるのです。確たる展望もなく進出した海外で大コケした企業にも、見習ってほしいほど。
しかし幸はまたも新たな試練に襲われそうです。商売を幸に任せた優しい夫の体調に異変が出そうなのです。。ビジネス的には「女名前禁止」の掟のある大坂から、江戸へと進出する転機なのかもしれませんね。個人的な幸福のほうが重要なのでしょうが・・。
2019/3