まだ時代小説作家として文壇にデビューする前の著者が、女性コミックの原作として書いていた作品群を、あらためてノヴェライズした短編集です。副題の「軌道春秋」は、コミックのタイトルです。全部の作品で駅や列車が重要な役割を果たしているのですが、とりわけ、この当時はまだ運行されていた「ふるさと銀河線」こと「旧池北線(北海道の池田町-北見市)が印象に残ります。
「お弁当ふたつ」(房総線):リストラされたことを家族に言えないでいた夫を追い、妻は弁当を持って列車に乗り込みます。
「ムシヤシナイ」(大阪環状線):駅のホームで立ち食い蕎麦を作り続ける祖父と、東京から家出してきた孫の交流が、包丁の使い方を通して描かれます。
「ふるさと銀河線」(旧池北線):両親亡き後、地方線の運転士となった兄と二人で暮らしてきた女子高生は、どのような進路を選ぶのでしょう。
「返信」(旧池北線):亡き息子の面影を抱いて陸別に向かった老夫婦が見出したものは、満天の星空でした。
「晩夏光」(東京-名古屋):アルツハイマーで記憶を失おうとしている母親と、息子の交流が描かれます。
作品の内容は、はっきり言って「若書き」であり、あまり深みは感じられません。それでも、人と人との結びつきを見守る優しい視点と、作品中に登場する料理が美味しそうなことが、後の著者の作品を予感させてくれます。
2015/7