りぼんの読書ノート

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ふるさと銀河線(高田郁)

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まだ時代小説作家として文壇にデビューする前の著者が、女性コミックの原作として書いていた作品群を、あらためてノヴェライズした短編集です。副題の「軌道春秋」は、コミックのタイトルです。全部の作品で駅や列車が重要な役割を果たしているのですが、とりわけ、この当時はまだ運行されていた「ふるさと銀河線」こと「旧池北線(北海道の池田町-北見市)が印象に残ります。

「お弁当ふたつ」(房総線):リストラされたことを家族に言えないでいた夫を追い、妻は弁当を持って列車に乗り込みます。

「車窓家族」(阪神線?):車窓から見える文化住宅に暮らす老夫婦の姿が、多くの通勤客にさまざまな思いを抱かせます。

「ムシヤシナイ」(大阪環状線:駅のホームで立ち食い蕎麦を作り続ける祖父と、東京から家出してきた孫の交流が、包丁の使い方を通して描かれます。

ふるさと銀河線」(旧池北線):両親亡き後、地方線の運転士となった兄と二人で暮らしてきた女子高生は、どのような進路を選ぶのでしょう。

「返信」(旧池北線):亡き息子の面影を抱いて陸別に向かった老夫婦が見出したものは、満天の星空でした。

「雨を聴く午後」(京王線?)バブル崩壊後、顧客の怨みを一身に受けた証券会社員は、学生時代に住んでいたアパートに癒されます。でもこれは、犯罪でしょう!

「あなたへの伝言」(京王線?):現在その部屋に住んでいる女性は、アルコール依存症の治療のため、家族と別れてひとり暮らしをしていたのですが・・。

「晩夏光」(東京-名古屋)アルツハイマーで記憶を失おうとしている母親と、息子の交流が描かれます。

「幸福が遠すぎたら」(京福嵐山線:卒業後16年ぶりに再会した3人の男女は、それぞれの運命と闘っている最中でした。

作品の内容は、はっきり言って「若書き」であり、あまり深みは感じられません。それでも、人と人との結びつきを見守る優しい視点と、作品中に登場する料理が美味しそうなことが、後の著者の作品を予感させてくれます。

2015/7