りぼんの読書ノート

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ののはな通信(三浦しをん)

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横浜のミッション系女子高に通う野々原茜(のの)と牧田はなの2人は、生まれも性格も正反対。庶民的な育ちで優秀でクールな性格のののと、外交官の娘で帰国子女で天真爛漫なはな。しかし2人は互いに友情以上の気持ちを抱き合ってしまったのです。一時は互いに運命の相手と思い定めますが、高校時代の恋愛感情なんて、異性同志だって続かないもの。ある事件をきっかけに2人の関係は終わりを迎えてしまいます。それでも2人の交友が終わらないのは、女性同士だからなのでしょうか。

 

最初から最後まで2人の通信文で構成された作品です。授業中に回したメモがやがて葉書や手紙になり、成人してからはメールになり、連絡が途絶えた期間は長い書簡を書き溜めた文章が、互いに抱いた感情はもちろん、2人が歩んだ人生を見事に表現しているのはさすがです。

 

本書を書き始めた時に30代後半であった著者は、40代女性がモチベーションとするものを描いてみたかったとのこと。だから2人の関係は、2人の間だけでは閉じません。ののは東大文学部を卒業した後にフリーライターとなって独身を通し、はなは外交官夫人となって海外で生活。しかし読者は不穏な未来を想像してしまうのです。ののは、東北の海岸地方に頻繁に取材に出かけるようになり、はなは、政情不安が高まるアフリカの架空の国に留まり続けます。そしてメールの日付は2011年にさしかかろうとしているのですから。

 

どちらの女性も魅力的ですが、短い交際期間を経て人生の「回路が開いた」のは、はなのほうですね。普通ならお嬢様育ちのままエリート外交官夫人としての人生を送ったのかもしれませんが、奔放で過激な生活を選択するのですから。著者は「人にとって必要なのは自分とは異なる存在だ」と語っていますが、同感です。「恋人じゃなきゃ」なんて贅沢は言わないそうですが。

 

2021/2