りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

イラクサ(アリス・マンロー)

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短編集だけどひとつひとつの物語が重い。それぞれの短編に一生分の出来事が詰まっている。だから次の段落で、いきなり何年も後の話に飛ぶこともある。人生っていうのは、不連続なエピソードの集合体?

もちろん違います。自分の人生のどの瞬間も無駄なものはない。それぞれの人生の長さに応じて、中身はぎっしり詰まってる。嬉しいことも、悲しいことも、数え切れないくらいにある。でも、それは本人が味わう、自分の人生。人生のある断面に光を当てて、エッセンスを他人に伝える時には、不連続なエピソードで十分なのでしょう。ある事柄の本質に迫る時には、捨象されるものもあるのです。

思い出を共有した少年少女が、30年後に再会したときに感じる甘美な想いと、人生のほろ苦さ。そして、ためらい。(イラクサ

孤独な家政婦に偽ラブレターを書き、彼女に人生を賭けさせた少女たちの罪悪感と、その後音信普通となってしまった家政婦が幸せを手にしたことを耳にして感じる、人生の不思議さ。(恋占い)

たった一度の不倫体験を、かけがえのない思い出として生きてきた女性が、不倫相手の訃報に接して抱く感慨。(記憶に残っていること)

ありふれた言葉だけど、珠玉の短編集です。先に読んだ『人生のちょっとした煩い』のグレイス・ペイリーに、作品の雰囲気が似ているように感じました。

2006/5