りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

死神の精度(伊坂幸太郎)

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なんと「死神」を狂言回しにした連作短編集です。どうやらこの世界にも官僚制があって、対象者を選ぶのは本部。本部の指示を受けて、対象者に7日間張り付き、「可」か「否」を決めるのが死神の役割なんですね。「可」の場合には8日目に、対象者には不慮の死が訪れます。

従って本書の読者は、「個々の人間の生死には関心がない」というクールな死神が、「個人が生きる意味」を判断する様子を、彼の視点から見つめ直すことになる・・・のかな?

この死神、クールなくせに微妙にズレてます。人間には興味ないのに滅法音楽好きで、暇な時間にはCDを視聴。常識にもうとくて「雪男とは、いつも雪に降られる男なのか?」

この死神が出会うのは、冴えないOL、昔かたぎのヤクザ、恋する若者、息子の復習に燃える母、キレた殺人犯に、人生を悟りきった老女。どの作品でも、なかなかおもしろい人間模様が描かれます。ラストの「死神と老女」で過去の因縁が巡ってくるあたりは、伊坂さんの得意とするヒネリの利いたシチュエーション。

「旅路で死神」では、殺人犯と一緒に仙台を通りかかった死神が、『重力ピエロ』の「春」とおぼしき人物と出会って不思議な会話を交わす場面もありますよ。

2006/5