りぼんの読書ノート

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希望荘(宮部みゆき)

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『誰か』名もなき毒ペテロの葬列に続く、「杉村三郎シリーズ」の第4作です。前作のラストで大企業創業者の娘と離婚して仕事も家族も失った杉村は、予想通り探偵事務所を開いています。本書は、杉村が震災前後に関わった4つの案件からなる連作短編集です。

「聖域」
最近亡くなったはずの、アパートに独居していた老女を見かけたという謎は、意外な方向に展開していきます。宗教まがいの団体に入れあげて母親の貯金まで巻き上げた娘から逃れてきた老女は、なぜ死を装ってまでして、再び娘と同居していたのでしょう。問題は宗教まがいの団体ではなく、娘の性格にあったのです。人間の悪意を描いてきたシリーズにふさわしい作品です。

「希望荘」
老人ホームに入っていた男が、死の直前に告白したという過去の犯罪とは何だったのでしょう。35年前に男の周辺で起きたストーカー殺人事件を調査しはじめた杉村は、老人ホームの周辺で昨年発生した女性殺人事件との共通性を見出すのでした。

「砂男」
離婚と離職直後の杉村が、ほぼ絶縁状態だった実家に戻っていた時のエピソード。身重の妻を見捨てて不倫相手と出奔した実直な男には、どのような事情があったのでしょう。不倫が狂言であったことは後に判明したものの、男の人物像が凶悪性を感じさせる過去とは結びつかないのは、何故なのでしょう。世の中にはやはり、救いようがない悪意というものが存在するのです。

「二重身(ドッペルゲンガー)」
依頼人は女子高生。母の交際相手で、震災直前に東北に行くと言って出掛けたまま消息を絶った雑貨店の店主の行方を捜して欲しいというのです。この事件の真相は「修道士カドフェル・シリーズ」の死体が多すぎると似ていましたが、もちろんテーマは異なっています。

主人公の杉村が新しい環境に身を置いて、新しい人間関係を気づいていくという展開は、TVドラマの「シーズン2」を作りやすそうです。オフィス街から店ごと移ってきた、喫茶店のマスターは例外ですが・。

2016/12