りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

誰でもよかった(五十嵐貴久)

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2008年6月に秋葉原で起きた無差別殺傷事件をモチーフにした作品です。インターネット掲示板に「明日。昼。渋谷で人を殺します」と犯行予告を書き込んでトラックで渋谷のスクランブル交差点に突入した犯人は、倒れた人々をナイフで刺し、11人の大量殺人を起こします。

ここまでの展開も犯人の動機も「現実の事件」とほぼ同じですが、本書の犯人は、近くの喫茶店に逃げ込んで、人質を取って立て篭もります。事件の早期解決を求める警視庁は、横川捜査1課長が自ら捜査本部の責任者となり、熟練の交渉人・渡瀬に犯人との交渉を託すのでした。

立て篭もりながらケータイで掲示板に書き込みを続け、今にもキレそうな犯人との息詰まる交渉・・となると交渉人・遠野麻衣子シリーズを書いた著者の得意分野なのでしょうか。

しかし渡瀬の反対にもかかわらず、家族に呼びかけさせて犯人を刺激させたり、人質を全員解放しないと逃亡用の車を与えないという無理な条件を譲らないなど、捜査本部からの命令には筋が通りません。これは捜査本部の焦りなのでしょうか。

ラストになって、それまでの不自然な展開と、タイトルの「誰でもよかった」の真の意味が明らかにされます。孤独感を抱えて無差別殺人を行う可能性を持つ人間が潜在的に増えていることに、警察は気づいていたんですね。交渉人・渡瀬が真に対決すべき相手は、犯人ではなかったのです。

本書に登場するネット掲示板は「ちゃんねるQ」とされていますが、そこで1Q84は意識されている?

2012/4