りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

極限捜査(オレン・スタインハウアー)

イメージ 1

共産圏に取り込まれてソ連の監視と統制の下で生きざるを得なかった、東欧の架空の国を舞台にした連作警察小説である「ヤルタ・ブールヴァード」シリーズの第2作にあたります。

本書の時代はスターリンの死から3年後、解放を求めた隣国ハンガリーソ連軍によって踏みにじられた1956年の夏。零落してアルコールに溺れた元美術館長と、かつては才能に溢れていたものの近年は社会主義リアリズムの駄作しか描いていなかった国民画家が、続けて変死する事件が発生します。犯人は美術関係者なのでしょうか。

事件の捜査にあたったフェレンクは、収容所から出所してきた元画家の存在に注目しますが、今度は妻マグダとの浮気を疑っていた同僚のステファンが殺害されてしまいます。果たしてこれらの事件は結びついているのでしょうか。

本書は、フェレンクの「告白」という形式で綴られます。それは、この時代にソ連の衛星国家で生きざるを得なかった人間の葛藤が、通常の捜査記録の範疇に治まらなかったことを意味しているのです。共産党役員の犯罪や、モスクワから派遣されてきたKGB職員の犯罪的行為は、どう扱われたのか。フェレンクの抱える個人的な悩みと、社会的な矛盾はどう関連していくのでしょうか。そして、殺人課付きの国家公安捜査官であるブラーノ・セブは、フェレンクをどう扱うのでしょう。

なかなか読み応えのある作品です。しかしこのシリーズは日本では人気が出なかったようで、全5作であるにもかかわらず、第1作の『嘆きの橋』と第2作の本書で翻訳が中断しているようです。

2014/3